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韓国“曺国元法相新党”の出現で4月総選挙はさらに混沌 澤田克己

 やはり韓国の選挙は直前までわからない。総選挙(4月10日投開票、定数300)まで1カ月あまりとなった3月3日に結党された新党が過激な政権批判で支持を集め、比例区で10議席をうかがう勢いを見せている。小選挙区では最大野党・共に民主党に協力する姿勢を見せ、比例では新党への投票を呼びかけている。投票日まで勢いを保てるか未知数の部分もあるが、場合によっては選挙結果を大きく左右しそうである。

かつて尹錫悦氏が追い落とす……

「祖国革新党」という。文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2019年に娘の入試不正事件で失脚した曺国(チョ・グク)元法相が、選挙で「みそぎ」を図ろうと立ち上げた。曺氏個人の人気に頼っており、党名に大きな意味はない。「曺国」と「祖国」は同音(チョグク)なので、表音文字であるハングルでは同じ表記になる。選管から党の名称に人名を使うのは不可とされたので、ひねり出した名前だ。支持者にとっては「曺国革新党」に見えるのだろう。

 曺氏は、文政権の進めた「検察改革」のアイコン的存在だった。検察による強引な捜査で盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が自殺に追い込まれたという思いが、検察の力を削ごうとする改革の背景にあった。当時は検事総長だった尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が入試不正事件で反撃し、強引な捜査で曺氏を追い落とした――。それが、曺氏支持者の考えだ。

共に民主党の李在明代表=2023年8月24日 Bloomberg
共に民主党の李在明代表=2023年8月24日 Bloomberg

 曺氏は今年2月にソウル高裁で懲役2年の実刑判決を受け、上告した。当選しても最高裁で実刑判決が確定すれば収監されることになるのだが、曺氏は高裁判決後のコメントで「新しい道を行く」と述べて新党設立を示唆していた。

 事件発覚当時、検察の強引な捜査に反発して「曺氏を守れ」と叫んで毎週のように開かれた集会には数十万人が集まった。現在も熱狂的な支持者は多く残っている。尹政権に強く反発するものの、現在の民主党には不満を持つという人が少なくない。

比例区で2割の得票?

 韓国の総選挙は、254の小選挙区と定数46の比例区で争われる。小選挙区は与野2大政党の争いとなるので、それ以外の党にとっての主戦場は比例区だ。曺氏の新党は比例区で2割前後の得票を得るのではないかという世論調査の結果が出ており、10議席をうかがう勢いを見せている。

 前回のコラム(3月6日)で紹介したように民主党は李在明(イ・ジェミョン)代表による強引な非主流派追い落としへの批判が強く、失速気味だ。曺氏の新党は、もともと民主党支持だが、李代表には拒否感を抱く有権者の受け皿となっている。

韓国の尹錫悦大統領(オランダ訪問時)=2023年12月12日 Bloomberg
韓国の尹錫悦大統領(オランダ訪問時)=2023年12月12日 Bloomberg

 曺氏の新党は過半数を取ろうなどとは考えていないから、尹大統領や閣僚らへの弾劾を持ち出す過激な政権攻撃を展開できる。中道層の票も取らないといけない民主党にはできない主張で、期せずして役割分担ができている形だ。

 曺氏は結党直後、民主党の李代表との会談で「民主党には難しい(過激な)キャンペーンを担当する。民主党は中道と穏健保守の票を集めてほしい」と実質的な選挙協力を持ちかけた。李氏も「尹政権を審判しようとする全ての政治勢力が力を合わせなければならない」と応じた。

民主党にも悪い話ではない

 新党が呼びかけるのは「選挙区は民主党候補に、比例区は祖国革新党に」だ。日本の国政選挙で公明党が「選挙区は自民党候補、比例は公明党に」というのと似ている。

 内紛に嫌気が差した支持者が棄権に回りかねないと心配していた民主党にとっても、悪い話ではない。曺氏の新党に票を投じたいと棄権せず、投票所に足を運んだ有権者ならば、小選挙区では仕方なくでも民主党候補に票を入れてくれると期待できるからだ。接戦の選挙区が多いだけに、民主党としては期待したいところだろう。

 ただ民主党公認候補の選出にあたって「選挙の勝ち負けより非主流派追い落としを優先した」とまで評される李氏が、曺氏との選挙協力を本気で進めるかという不確定要素もある。政界関係者からは「政治的ライバルとなりうる曺氏の躍進に李氏が手を貸すとは考えづらい」との声も聞かれる。曺氏の新党を巡る攻防も、今後の選挙戦での注目ポイントの一つとなりそうだ。

澤田克己(さわだ・かつみ)

毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数。

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