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国際・政治 日韓関係

総選挙与党惨敗を韓国メディアはどう伝えたか「安倍政治の弊害、石破首相に期待したけれど…」 澤田克己

尹錫悦大統領(右)。朝鮮半島を巡る国際情勢は厳しさを増している(写真は韓国を訪れたポーランドのドゥダ大統領と会談後の共同記者会見)=2024年10月24日、聯合ニュース/共同
尹錫悦大統領(右)。朝鮮半島を巡る国際情勢は厳しさを増している(写真は韓国を訪れたポーランドのドゥダ大統領と会談後の共同記者会見)=2024年10月24日、聯合ニュース/共同

 自公連立与党の惨敗に終わった衆院選の結果を韓国メディアはどのように論評したのだろうか。韓国の新聞の多くは選挙結果を翌日の朝刊1面で「12年の『1強独走』終わる」(朝鮮日報)などと大きく扱った。一方で、選挙結果の確定を受けて論評できる29日朝刊の社説で取り上げた新聞は多くなかった。政局が流動的で見極めが難しいだけでなく、韓国内で与党の内紛激化など大きなニュースが続いている影響があるようだ。最大野党・共に民主党の関係者は「日本の首相が誰になるかは韓日関係に響くから関心がないわけではないけれど、国内ニュースが多すぎて……」と話していた。

社説に取り上げた4紙を読み比べ

 社説に取り上げたのは保守系の東亜日報、進歩系のハンギョレ新聞、中道の韓国日報、経済紙の毎日経済新聞だった。内容的に分けると、日韓関係への影響を懸念する東亜日報、安倍晋三元首相を批判する材料としたハンギョレ新聞、順調に進んできた日米韓連携への影響を案じる韓国日報と毎日経済新聞となった。

 東亜日報は、裏金問題を巡る経緯や非公認候補への2000万円支給、経済政策への不満などといった敗因を指摘。「結局、石破首相は、国民が望む景気回復のための方策と政治改革について、国民が聞きたかったメッセージを打ち出すことができなかった」と断じた。一方、負の歴史にきちんと向き合うべきだという首相の持論を意識し、「今回の選挙結果によって、韓日関係が(石破政権発足時に)期待したほど早く改善されるのは難しそうだ」という懸念を示した。

 日本から見ると「関係改善は十分に進んでいるのではないのか」となるが、韓国側の感覚は少し違うことが読み取れる。

自民党大敗。党の開票センターで中継のインタビューに答える石破茂首相=2024年10月27日、平田明浩撮影
自民党大敗。党の開票センターで中継のインタビューに答える石破茂首相=2024年10月27日、平田明浩撮影

 10年あまりにわたって「最悪」と言われ続けた日韓関係は昨年、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が徴用工問題の解決策を打ち出したことで劇的に改善された。ただ野党からは「譲歩ばかりの屈辱外交」と攻撃されており、国民からも「日本が歴史問題でもう少し踏み込んだ姿勢を見せてくれてもいいのではないか」という不満が強い。そうした中で登場した石破首相に期待したけれど、という気持ちを素直に表現した社説ということになる。尹政権による対日関係改善を是とする保守派からも、こうした声が出るということは留意すべきだろう。

気になるのはやはり米大統領選

「安倍政治」への批判が自民惨敗の原因だととらえるハンギョレ新聞は、日本社会に積み重なった「安倍政治の弊害」を指摘する。中でも歴史認識に関して、安倍氏が戦後70年談話で「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と述べて以降、「日本は韓国に『過ぎ去った歴史は忘れて安保協力を進めよう』という安倍路線の受け入れを要求し続けてきた」と批判。このままでは、来年の国交正常化60年に合わせて検討されている新たな宣言が安倍路線に基づくものになりかねないという懸念を表明した。今回の選挙に対する論評になっているかはともかく、対日関係に関する同紙の姿勢を明確に示したと言えるだろう。

 11月の米大統領選とからめ、日米韓連携の重要性を論じたのが韓国日報と毎日経済新聞だった。

 韓国日報は「(就任後)2年間の尹錫悦大統領の外交は、バイデン大統領と岸田文雄首相とともに、韓米日連携に全てを賭けるものだった」と指摘した。その上で「いま日本では新しい首相が選挙敗北の責任を問われ、米国では3カ国協力の基盤を揺るがすかもしれない人物が大統領に当選する可能性がある」とし、「韓国外交の中心軸である韓米同盟と韓米日協力に支障が出ないよう」備えることを韓国政府に求めた。

 毎日経済新聞は「米日の政局激浪…試される韓米日連携」という社説を掲げ、3カ国連携の重要性を説いた。尹政権にとって最大の外交成果であるにもかかわらず、「パートナー2カ国のうち一つは(政権の)基盤が弱まり、もう片方は政権交代の可能性が語られている」と懸念を表明。ロシアと北朝鮮の関係強化に対応するためにも「韓米日連携が揺らぐことのないよう外交努力を尽くさなければ」と訴えた。

 韓国日報と毎日経済新聞の論調は、日本の新聞各紙に多く見られる考え方に通じる。どちらにしても、最大の変数は米大統領選の行方である。

澤田克己(さわだ・かつみ)

毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数。

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