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国際・政治特集

総括!安倍政治の功罪 実は西側で最初に誕生した“右翼政権” 禁じ手使った「牛になりたい蛙」の愚=倉重篤郎

安倍内閣の支持率(注)2017年の9月から携帯電話を調査対象に加えた (出所)毎日新聞の全国世論調査
安倍内閣の支持率(注)2017年の9月から携帯電話を調査対象に加えた (出所)毎日新聞の全国世論調査

 英ブレグジット、米トランプ政権の誕生以降、西側先進各国で自国中心、排外主義的な傾向が強まり、右翼ポピュリズム政権が相次いで誕生しているが、実は2012年の日本の安倍晋三政権(第2次)こそがその走りだったのではないか。そう考えることで政権誕生の秘密、その強さを理解しやすくなる。

特集「総括!安倍政治の功罪」

 一連の右傾化の背景には、1990年代以降の先進資本主義経済の全般的な長期低落傾向がある。技術革新の低迷や地球的な資源・環境上の制約が、資本主義の富を生む力を弱体化させ、その結果、民主主義がその最も重要な資質である寛容性を失い始めた時期である。右肩上がり成長時は、他者にも富を分かつ余裕があるが、ゼロ成長、マイナス成長になると、まずは自国ファースト、ナショナリスティックなモードが強くなり、右翼政党が支持を広げる。

 この長期低落の罠(わな)にいち早くとらわれたのが、90年代の日本だった。GDP(国内総生産)はこの間500兆円前後と低迷した。資産バブル崩壊の傷痕が思った以上に深かったことと、人口構造の急激な変化(少子高齢化、生産年齢人口・総人口の減)に対応し損なったこと、この二つの日本の独自事情が長期低落、つまりデフレ化を速め、かつ深刻にした。歴代政権は財政出動策を多用、景気対策や社会保障に金をかけ現役世代への寛容さをつなぎとめてきたが、そのおかげで1000兆円という持続不能な借金の山を築いた。

 そこに安倍政権登場の契機の一つがあった。安倍氏は財政政策の手詰まりを超える政策として、異次元金融緩和、つまりアベノミクスを提唱した。マネーストックを異次元に増やし期待感によって経済のインフレ化を図る一方、日銀が国債をいくらでも引き受けるという事実上の財政ファイナンスで放漫財政を許容する一石二鳥の政策であった。もちろん、日銀財務を悪化させ、かつ財政規律をマヒさせる、という意味でリスクの高い禁じ手でもあったが、世の中は2年間限定の実験的実施と受け止め容認した。

 金融緩和には、後世代の人々が消費、投資すべきものを前倒しさせる効果がある。したがって、アベノミクス下の現役世代は、本来は自分たちが向き合うべき負担や不寛容を、財政のみならず(消費増税の2度にわたる延期)、金融政策という側面でも後世にツケ送りした。自らの支持層以外には排他的になる典型的ポピュリズム政権だ。欧米では移民を排他したが、日本では投票権のない後世代を排他した形である。

歴代首相の通算在籍日数(2018年8月31日現在)
歴代首相の通算在籍日数(2018年8月31日現在)

政権誕生の要因は中国台頭

 さて、安倍政権誕生でもう一つ欠かせないファクターは、中国の経済的、軍事的台頭だ。経済では10年にGDPで中国に抜かれたショックだ。世界で第2位、アジアでトップの経済大国であり続け、日清戦争以来、中国を下に見てきた日本人の自意識を傷つけた。民族的アイデンティティーの危機だった、とも言える。

 中国の太平洋への軍事進出がそれに輪をかけた。尖閣をめぐり大規模な反日デモが行われ、中国軍が増強される、というニュースは、日本国民の不安、恐怖心を増幅した。底流には、米軍がこの地からも撤退していくのではないか、という観測と、中国に対する戦争責任を十分果たしてこなかったのではないか、という後ろめたさがあったように思う。

 これに対しても安倍氏は回答を用意していた。アベノミクスによる経済再興と、日米同盟による対中国軍事抑止力の強化であった。そのナショナリスティックな国力再強化路線が、人心をつかみ、今に至っている。

 特筆すべきは、安倍政権は同盟強化策でも禁じ手を使ったことだ。集団的自衛権行使の一部容認だ。歴代保守政権が護持してきた憲法9条による縛りを解き、一定の条件を付けながらも米軍を守るための戦争をも可能にし、かつ、米軍に対する弾薬などの後方支援については地球の裏側までできるような新法制を作った。米国の歓心を買い米軍のこの地域における対中軍事プレゼンスを維持・強化しようというものだ。

 その西側初の右翼ポピュリズム政権も6年の節目を迎えた。ここで議論すべきは、前述した二つの禁じ手の持続可能性、その代案である。

 異次元緩和は2年限定の劇薬であった。株高・円安の薬効がある半面、長期服用は日本経済に致命的な副作用(日銀債務超過、財政規律マヒ)をもたらす運命にある。大リバウンド(国債暴落、金利高騰)回避のためにも薬断ち(出口)作戦を念頭に政策を切り替える時期であろう。

 同盟による軍事抑止力強化(軍拡)の道もまた持続困難である。中国との軍拡ゲームには際限がない。同盟強化を理由にした米国からの防衛費増、兵器購入要求も日本の財政事情とは不整合だ。粘り強い外交による軍縮への道をなぜ描けないのか。

 ここであるイソップ寓話(ぐうわ)を思い出す。親蛙(ガエル)が牛に負けてはならじと体を膨らませ、最後は破裂してしまう話だ。安倍政権もまた本来の自らの力をわきまえずに、経済でも安保でも禁じ手を使って無理に体を大きく見せ、牛に対抗しようとしていないだろうか。元の蛙のままで、牛と共存、共生する道はないのか。安倍3選を問う総裁選、来年の参院選ではその選択肢を問うてほしい。

(倉重篤郎・毎日新聞専門編集委員)

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