FRBは19年も利上げを続けるべきなのか?=岩田太郎
株・債券・コモディティーの同時安に市場が見舞われるなか、米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年に利上げを休止すべきかという議論が盛んだ。
米『ワシントン・ポスト』紙のロバート・サミュエルソン論説委員は18年12月16日付のコラムで、「15年12月以来、FRBは短期金利をほぼゼロのレベルから8回、合計2ポイント引き上げ、9回目の18年12月の利上げで2.5%となる。一部のエコノミストは高金利が米経済の成長を減速させ、悪くすれば景気後退をもたらすと懸念している。株式市場の乱高下も恐れを増大させている。一方で、FRBが緩和的な政策を長引かせ続ければ、インフレが加速して投機が増え、米経済は減速する恐れがある」と述べ、FRBがどちらに転んでもリスクに直面すると説明した。
投資助言会社の米TSロンバードのチーフエコノミスト、スティーブン・ブリッツ氏は12月初旬の投資家向け分析で、「米連邦公開市場委員会(FOMC)が市場の乱高下にいかに対処するかで、米経済が引き続き拡大するか、景気後退に陥るかが決まる」との見解を表明し、「FOMCは利上げを休止すべきだ。インフレ率が急伸しておらず、経済が直面する逆風は強いからだ」と主張した。
また、トランプ政権で経済顧問を務めたスティーブン・ムーア氏は18年12月10日の米経済専門局CNBCの番組に出演し、「米経済で唯一の懸念はFRBの利上げだ」と断言した。ムーア氏は、「トランプ大統領が実現した減税で賃金が上昇するたびにFRBは『そら、インフレだ! 市中のマネーの供給を減らさなければ』と言う。だが、そういう対応をされれば、賃上げが続かない」と論じ、「FRBが将来の景気後退で金利引き下げを行って対処するのりしろを作るための利上げという解釈があるが、その利上げこそが景気後退をもたらす」と結んだ。
一方、1994年から96年にかけてFRB副議長を務めたプリンストン大学のアラン・ブラインダー教授は18年12月12日のCNBCの番組で、「トランプ大統領は『FRBが12月に利上げをすることは愚かしい』と発言した。だが、トランプ氏がほとんどのことについて間違っているように、利上げに関しても間違った考えを持っている」と批判した。
さらにブラインダー氏は、「FRBは15年から金融のアクセルの踏み込みを緩めてはいるが、いまだに踏み込んだ状態であることに変わりない」と説明した。その上で、「現在、米経済に対しては特に住宅分野などで悲観的な見方が強まっているが、市場はいつも(弱い数字を)拡大解釈するものだ。労働市場は引き続き強く、米経済の成長を心配する必要はない」として、利上げの継続を支持した。
インフレ率上昇に疑問
しかし、FRBの利上げ継続の根拠の一つであるインフレ率上昇については、内部からも疑問を呈する動きがある。サンフランシスコ連銀のリサーチアドバイザーであるアダム・シャピロ氏は18年11月26日に同連銀サイトで発表した研究で、「直近のインフレ率の上昇を分析すると、物価は経済が強いから上がったのではなく、耐久消費財、交通費など特異で非景気循環的な要素が原因だ。住宅や外食など景気循環的な物価は上昇傾向がみられるものの、ほぼ横ばいだ」と指摘した。
シャピロ氏はさらに、「非景気循環的なインフレには歴史的に持続性がなく、早晩消えていくだろう。つまり、非循環的要素で上昇したインフレ率は、FRBの目標値である2%を再び下回る可能性が高い」と結論付け、利上げ休止論者と共通する認識を示した。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)