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「小悪」安倍首相にすら勝てない野党は何なのか=小林よしのり(漫画家)

撮影 中村琢磨
撮影 中村琢磨

 この夏「新聞記者」という映画が、安倍政権批判を描いた傑作として左翼方面で絶賛されていたので観賞してみたが、残念ながら、この映画には安倍政権の本質が全然描かれていなかった。

 そんたくとお友達政治が蔓延(まんえん)する公私混同こそが安倍政権の本質なのだが、それはあまりにも「小悪」で、スケールが小さすぎて映画にならないのだ。

 だから映画では終盤、加計学園を思わせる大学は、実は政府が生物兵器開発に転用しうる研究施設として構想していたもので、その地下には秘密の細菌兵器製造プラントが建設されていたなどという、都市伝説レベルのSF的設定に突然ぶっ飛んでしまう。わしは見ていて鼻白むしかなかった。

 現実の政治権力を批判するつもりだったのに、現実が小悪の累積で、映画として面白く描くのが難しかったから、現実離れした、わかりやすい「巨悪」を作り上げざるをえなかったのだ。もっとも、これも陳腐すぎてちっとも面白くはなかったが。

 深刻なのは、「他に適当な首相候補はいない」という世論調査の毎度の結果である。安倍首相は「小悪」だが、それに対抗する野党はもっと小さいのだ。大きな国家ビジョンを示すことも一切できないまま、「桜を見る会」ごときを追及するのに血道を上げる野党のちっぽけな志を見ていると、本当に情けなくなる。

 プーチンにしろ、習近平にしろ、金正恩にしろ、トランプにしろ、世界では巨悪の権力者が、手段を選ばず生き残りを懸けて暗闘している。そんな世界に伍(ご)して、こんなちっぽけな権力者とちっぽけな野党が小さな小さな争いをしている日本が生き残っていけるのだろうか。

 憲法一つ変えられない、属国の民の劣化は歯止めが利かないのだろうか。

(小林よしのり・漫画家)


 本欄は、池谷裕二(脳研究者)、片山杜秀(評論家)、小林よしのり(漫画家)、古賀茂明(元経済産業省官僚)の4氏が交代で執筆します。

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