原油の協調減産 協議決裂で大幅下落 サウジと露の深い溝=岩間剛一
石油輸出国機構(OPEC)と、ロシアなどOPEC非加盟国による「OPECプラス」は3月6日、ウィーンで開いた閣僚級会合で、原油の減産規模の拡大などを巡って協議したが決裂した。ロシアが日量150万バレルの追加減産案を拒否したことで予想外の結果に終わり、週明け9日のニューヨーク原油先物市場でWTI(米国産標準油種)は一時、1バレル=30ドルを割り込み、2016年2月以来ほぼ4年ぶりとなる安値を付けた。
新型コロナウイルスの感染拡大による石油需要の減退が続き、原油価格には下落圧力がかかっていたが、前週末から一気に3割超も下落した衝撃は大きい。サウジアラビアなどOPEC産油国は米国のシェールオイルだけでなく、ロシアとも消耗戦を強いられることになる。サウジの国営石油会社サウジアラムコは3月10日、4月以降の生産量を現在の日量約970万バレルから日量1230万バレルへと大幅に引き上げると発表した。
OPECプラスは今年3月末までを期限に、18年10月比で日量170万バレルの協調減産を実施している。3月5日のOPEC臨時総会では、ロシアの協調を条件に日量150万バレルの追加減産を4月以降、3カ月にわたって実施する方向で合意が成立していた。当初の日量60万~100万バレルの追加減産予測よりも踏み込んだ内容であり、18年10月に比べ合計日量360万バレルもの減産となる。
新型コロナで需要減
サウジはサウジアラムコの海外市場でのIPO(新規株式公開)をにらんで原油価格下支えを目指し、協調減産強化を主導した。しかし、ロシアはOPECプラスによる協調減産について、米国のシェールオイルにシェアを奪われるだけという考えが根強く、ロシアの複数の石油企業は自由な生産活動を希望。ロシアの国際石油市場における主導権掌握の思惑もあり、サウジとの間の深い溝が埋まらなかった。
ロシアのプーチン大統領は、「ロシアは(価格が)現状でも受け入れられる」と自信を見せるのに対して、OPEC加盟国の財政事情は楽観できない。中東産油国の生産コストは1バレル当たり4~10ドル程度と安価だが、手厚い社会保障などにより財政の支出規模も大きく、財政を均衡させる原油価格はサウジでも1バレル=80ドル程度である(図)。現状の原油価格では財政赤字が続き、国家財政は持続可能ではない。
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界最大の原油輸入国である中国の経済を直撃し、世界各国に拡大している。観光業や企業の生産活動に大打撃を与え、自動車用のガソリン、航空機用のジェット燃料の消費量減少が止まらない。IEA(国際エネルギー機関)は今年2月、20年第1四半期(1~3月)の世界の石油消費量が前年同期比日量43・5万バレル減少すると見込んだが、100万バレル以上減少するとの見方も強まっている。
サウジにとっては、14年に原油生産量の増加を放置し、米国のシェールオイルとの消耗戦を続けたことで、16年2月にはWTI原油価格が1バレル=26ドルまで下落した苦い経験がある。その結果、ロシアと手を組んでOPECプラスの枠組みを形成し、17年1月から協調減産を余儀なくされた。そのロシアとの協調も崩壊した今、原油価格の下落は底が見えない状況に陥っている。
(岩間剛一・和光大学経済経営学部教授)