過剰流動性というコロナの副産物=愛宕伸康
ポストコロナの経済を考える上で、気になる動きがある。マネーストックと、それを名目国内総生産(GDP)で割って算出される「マーシャルの“k”」だ。
図1は日本、米国、ユーロ圏、中国のマネーストック(M2)の前年比だ。マネーストックとはかつてマネーサプライと呼んでいた「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」のことで、M2は「現金通貨+預金通貨+準通貨+CD(譲渡性預金)」で定義される。これが足元で急増している。企業の資金繰り難からつなぎ融資が膨らんでいること、各中央銀行が積極的な企業金融支援策を講じていることが背景にある。
マーシャルのk(M2/名目GDP)を示したのが図2である。長い目で見ると、マクロ経済活動とマネーとの間には安定した関係が存在し、マーシャルのkをグラフにすると緩やかな右肩上がりのトレンドが描ける。実際のマーシャルのkがこのトレンドラインを上回れば、経済活動に見合わない過剰なマネーが流通していることを示唆し、資産バブルやインフレのサインと受け取ることができるが、足元でそれが起きている。
マーシャルのkは、マネーストックをM、実質GDPをY、物価(GDPデフレーター)をPで表すと、k=M/PYと整理できる。kの上昇はMの増加とYの減少で生じているが、これが今後どうなっていくのか考えてみたい。
資産バブルに要注意
目先は景気悪化に伴うデフレ(Pの下落)が発生し、kの上昇に拍車をかけるだろう。今年後半にかけてコロナが終息に向かい、各国の経済活動が正常化するにつれYは回復するが、ワクチン接種が一般的になるまでは元の水準に戻らない。ウイルスの第2波に備え、つなぎ融資が劇的に減ることも、各国中央銀行が金融引き締め策に転じることも考えにくい。Mは高止まりし、kが上放れした状態がしばらく続く可能性が高い。
しかし、いずれYもPも元の水準に戻っていく。その段階でMが元の水準まで縮小すればkはトレンドラインに回帰するが、Mが増加したままなら、Yは潜在成長率を超えて大きく増加しないため、Pが予想以上に上昇するか、kの新たなトレンドラインが形成されるかのいずれかになる。
正解は結果を見なければ分からない。明らなのは、未曽有の政府債務残高と過剰流動性が残る中、各国中銀は難しいかじ取りを迫られるということだ。財政リスクによる長期金利の不安定化を意識するあまり出口が後手に回れば、インフレうんぬんの前に資産バブルのリスクが高まることになる。
(愛宕伸康・岡三証券チーフエコノミスト)