米企業債務 リーマン超えで株価下落も=田中純平
新型コロナウイルスの感染拡大が終息しつつある中、欧米に続き日本でも経済活動が段階的に再開した。金融市場は主要国の経済活動再開を好感し各国の株式市場は3月下旬の底値から回復基調にある。ピクテは3月11日、経営幹部やCIO(最高投資責任者)、ファンドマネジャーらの投資判断会議で世界株式の投資評価をアンダーウエート(売り)からニュートラル(中立)に引き上げた。今までのところ、この判断は正しかったと言えよう。<コロナデフレの恐怖>
米金融当局のコロナ危機への対応は迅速だった。流動性リスク(資金調達が困難になるリスク)の高まりを受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)は無制限の量的緩和と大規模で迅速な流動性供給を断行した。金融市場の不安感を示すセントルイス連銀の「金融ストレス指数」はピークだった3月20日の5・37から5月22日には0・12まで低下し、金融市場の緊張状態の緩和が示されている。こうした動きに加えて、未曽有の金融緩和と主要各国における経済活動再開の期待感などが相まって、米国株は回復基調になっている。
パウエル議長の警告
ただ、米国株の好転とは対照的に、当のFRBは米国経済の先行きに慎重な見方だ。5月13日の講演でパウエル議長は先行きが極めて不確実だとし、第二次世界大戦以降のどの不況よりもはるかに悪いと表現した。また、景気回復が勢いづくまで時間がかかる可能性があり、時間が経過すれば流動性の問題がソルベンシー(返済能力)の問題に変わりかねないと警告した。
言い換えれば、景気低迷の長期化で業績悪化に苦しむ企業が続出すれば、FRBの金融政策でさえも返済能力を回復させることは困難になるということだ。つまり、FRBは流動性供給などによって景気回復までの一時的な時間稼ぎはできるが、「時間切れ」となれば取れる手段は限られてしまうことになる。
一般的に企業の返済能力は債務の多寡に左右される。その企業債務は相対的な低金利環境や自社株買い、M&A(企業の合併・買収)に伴う社債発行などにより増加傾向だ。2019年における企業債務がGDP(国内総生産)に占める割合は74・9%と、08年リーマン・ショック時の72・5%を超える水準まで大きく上昇している。景気回復まで時間がかかれば、過剰な金融緩和によって膨張した企業債務が逆に企業の返済能力を毀損(きそん)させ、ソルベンシー・リスクを高めることになる。
米国経済の先行きを見通すうえでは、新型コロナ終息に欠かせないワクチン開発が「カギ」になるだろう。今後の開発次第でワクチンの承認・供給の時期が前倒しになる可能性もあるが、多くの専門家が指摘するように今年の秋~冬の感染第2波は避けられないかもしれない。景気の下振れ圧力とソルベンシー・リスクが表面化すれば、NYダウは再び2万1000~2万3000ドルの下値模索があり得るだろう。
(田中純平・ピクテ投信投資顧問ストラテジスト)