コロナで直面する日本政府の「資金不足」……民間が補えなければ日本は今後経常赤字に転落する
アフターコロナの経済を考える上で直視すべき衝撃的なグラフを紹介しよう。部門別に見た「貯蓄投資バランス」である(図1)。
新型コロナウイルス感染症対策により、2020年度の「一般政府」の資金不足幅が大幅に拡大する。金融危機やリーマン・ショックの後の資金不足でさえ、大したことはなかったと思えてしまうほどの振れ幅だ。必要な財政措置であったとはいえ、今後の経済に大きな影響を及ぼす可能性がある。
貯蓄投資バランスとは、各経済主体の資金ポジションのことで、プラスなら資金余剰、マイナスなら資金不足を意味する。図1では「家計」「一般政府」といった部門別に、資金余剰なのか不足なのかを、日本銀行の資金循環統計を用いて見ている。
国内全部門の合計が日本全体の資金過不足を示し、プラスなら国として資金余剰の状態であり、逆に「海外」は資金不足でマイナスということになる。この「海外」の符号を逆転させると日本の経常収支にほぼ等しい。
近年は、「一般政府」の恒常的資金不足(財政赤字)を「家計」と「企業(非金融法人企業)」の資金余剰で賄い、全体では「海外」がマイナス、すなわち経常収支が黒字の状態が続いている。以前は、旺盛な設備投資を背景とする「企業」の資金不足を、潤沢な貯蓄に支えられた「家計」の資金余剰で賄う構図だったが、1990年代後半から「企業」が資金余剰主体となり、「家計」とともに「一般政府」の資金不足を支えてきた。
財政の持続可能性にも影響
その「一般政府」の資金不足幅が20年度に尋常でないレベルにまで拡大する。それを他部門の資金余剰でカバーできなければ、日本全体としても資金不足になり、少なくとも一時的には経常収支が赤字に転落するということになる。
分かりやすく言えば、今は「家計」や「企業」の余剰資金があるから、それが「金融機関」を通じて国債投資に回り、結果的に長期金利が跳ね上がることなく政府は財政赤字を拡大させることができている。今後、そうした国内資金による国債の吸収ができなくなる可能性が高まるということだ。
民間部門の貯蓄投資バランスはあくまで正当な経済行動の結果であり、資金不足になるのが良い、悪い、ということはない。ただし、それに大幅な財政赤字が重なると、「財政の持続可能性」という観点から問題となる可能性がある。「国際収支統計」によると、経常収支の黒字幅が急速に縮小している(図2)。このまま赤字に突入し常態化してしまうのか、コロナ終息とともに元の黒字幅を回復するのか、注視する必要がある。
(愛宕伸康・岡三証券チーフエコノミスト)
(本誌初出 コロナ後の資金不足が招く経常赤字=愛宕伸康 20200825)