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打倒アマゾン!中小企業に人気のECサイト支援「ショッピファイ」がコロナ禍で利益を3倍に伸ばしたワケ

    ショッピファイのオンラインサイト Bloomberg
    ショッピファイのオンラインサイト Bloomberg

     ◆Shopify

     新型コロナウイルスの感染拡大のもとで、カナダのEC(電子商取引)サイト構築支援企業、ショッピファイが収益を拡大している。2020年7~9月期・第3四半期決算は、売上高は前年同期比2倍の7・7億㌦(808億円)、純利益は同2・7倍の1・9億㌦(200億円)だった。外出制限による巣籠もり需要の拡大を背景に、これまでネット通販を手掛けていなかった中小企業の取り込みが急速に拡大している。日本でも「楽天市場」での店舗運営サービスを展開するなど攻勢をかけている。

     ショッピファイは04年にカナダのオタワで設立された。創業者のトビアス・リュトケCEO(最高経営責任者)がスノーボードのネット販売を始めようとしたが、新規参入する小事業者が使いやすいサービスがなかった経験から、06年に自ら新興企業・中小企業向けにECサイト構築の支援サービスを始めた。

     ショッピファイはネット通販のノウハウを持たない企業向けに、ECサイトを構築するだけでなく、売上高や在庫、配送、決済などの管理システムを一元化して提供している。単なるサイト作成サポートにとどまらないのがポイントだ。配送業者をはじめ多様な外部サービスと提携しており、EC進出に必要な要素の大部分を一気に整備できる。

     さらに、ショッピファイは他のプラットフォーマーとも連携し、複数チャンネルでの販売もサポートする。今年4月には楽天と、同6月には米ウォルマートと提携しており、現実にユーザーの3分の2以上は複数チャンネルを活用している。

    100万社が利用

     現在、ショッピファイは米国を中心に175カ国をカバーし、ユーザーは100万社に上る。5年前の16万5000社と比べると急拡大ぶりが分かる。アマゾンなどのモールへの出店とは異なり、ショッピファイの支援サービスを使ったEC参入は、あくまで自前サイトで商品を直販する形になる。それによって、ユーザーは顧客情報を自分で管理できるのだ。ショッピファイはECへ新規参入する中小企業をターゲットにしているが、アマゾン依存からの脱却・自前化を図る大企業もユーザーには含まれている。

     売上高は月額定額制の利用料と決済などのサービス手数料の二つ。サービス開始時の初期費用は課されず、ECサイトでの販売額に応じた販売手数料も不要だ。

     月額利用料には、価格の違う複数のプランが用意されており、最も手ごろなプランは月額29ドル。ユーザーの大部分は月額50ドル以下の低価格プランを選んでいるが、取引総額(ユーザーの売上高の総額)への寄与度は上級プランが大きい。上級プランほど解約も少ない。入り口のハードルを低くして、多数のユーザーを集めて知名度を高め、上級プランのユーザーを増やして取引総額を増やし、ショッピファイの売上高を確保していく戦略のようだ。最も価格の高いプランは取引高の大きい大企業向けで、ユーザーは全部で約7100社。ここには、食品のネスレ、オフィス用品のステープルズなども含まれている。

     サービス手数料は決済手数料が中心で、ほかに出荷・配送手数料なども含まれる。手数料は商品取扱高に応じて課される。目下、出荷・配送システムの強化を図っており、19年10月には倉庫の自動化システムの開発会社を買収した。

     ショッピファイの売上高は、コロナ下での急増を迎える以前も、急拡大を続けてきた。売上高の増加率は過去6年間に徐々に下がったが、それでも19年12月期も前期比47%増加し、15億7800万ドル(約1673億円)。取引総額も増え続け、19年12月期は611億ドル(約6兆4766億円)に達している。

     もともと、売上高の中心は月額利用料だったが、取引総額が増え、サービスのオプションがそろうとともにサービス手数料が伸び、19年にはサービス手数料が売上高の6割を占めている。月額利用料は粗利率が80%前後と高く、この粗利益が全体を支えてきた。しかし、サービス手数料の粗利益の伸びも大きく、いずれ粗利益でもサービス手数料が中心になりそうだ。

     ただ、年間決算ではいまだに営業赤字が続いている。販売費、研究開発費、管理費が増えているからだ。15年5月の上場後、通期5期の営業赤字は売上高の7~10%相当額で推移し、当期純損失も増え続けている。現在までの売上高規模で多額の研究開発投資も続けていくと、採算は確保できない。とはいえ、売上高が前年同期から倍増した20年4~6月期の3カ月決算では、営業利益は極めて少額ながら初めて黒字化している。

    豊富な手元資金

     ショッピファイの事業から手元に残ったキャッシュ(営業キャッシュフロー)は、15年以降はプラスを維持しているが、少額にとどまっている。5年間の合計では、営業キャッシュフローでは設備やソフトウエアへの投資をまかないきれず、資金の不足分は毎年のように実施する増資による手取り金でカバーしている(配当はしていない)。

     社債など有利子負債によらず、増資によって調達した資金で企業買収費用もまかない、さらに残りを預金や有価証券取得に充てている。20年6月末の現預金・有価証券残高は40億ドル(約4240億円)で、総資産の約8割に相当するほど大きい。

     ショッピファイは、米国のネット小売りの取引総額ではアマゾンに次ぐグループの一角にある。しかし、今のところ、その取引総額はアマゾンの10分の1程度と推定される。今後アマゾンを含めた激しい競争の中で営業黒字を定着させるために、手元資金をどこに投じていくかが注目される。

    (児玉万里子・財務アナリスト/編集部)


    日本でもEC支援拡大 業績好調のBASE

     新型コロナウイルスの感染拡大は、日本でもネットショップの開店ラッシュを招いている。2012年創業のBASE(19年に東証マザーズ上場)のECサイト構築サービスは、新たにネットショップを始める個人や小事業者をターゲットにしている。決済などのサービスには手数料がかかるが、ECサイト構築の初期費用や月額費用はかからず、気楽に開店できるのが特色だ。

     BASEによる新規ショップの開設数は今年3月下旬以降急増し、累積ショップ開設数は7月には110万件を突破している。通期決算では営業赤字が続いていたBASEの業績にも大きく影響し、20年4〜6月期では取引総額が310億円と前四半期(1〜3月期)の2.5倍、売上高は2.3倍の25億5700万円に急増、営業利益は6億4000万円を計上した。今後の動向は不確定要素が大きいが、20年12月期には通期ベースでの営業黒字化も視野に入ってきた。

    (児玉万里子)


    企業データ

    (出所)ブルームバーグ
    (出所)ブルームバーグ

    本社所在地=カナダ・オンタリオ州オタワ

    CEO=トビアス・リュトケ(Tobias Lütke)

    総資産=34億8900万米ドル

    純資産=30億1500万米ドル

    売上高=15億7800万米ドル

    当期純損失=1億2400万米ドル

    従業員数=5000人超

    上場取引所=トロント証券取引所およびニューヨーク証券取引所

    (注)数字は2019年12月期

    2020年9月14日 本誌初出:「ショッピファイ 打倒アマゾン、カナダのEC支援=児玉万里子/304」を一部編集し、11月10日に更新しました。

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