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日本企業はどのようにイノベーションを起こしてきたのか? イノベーションの長期メカニズムの研究に第60回エコノミスト賞

受賞に笑顔で収まる藤原雅俊氏(左)と青島矢一氏
受賞に笑顔で収まる藤原雅俊氏(左)と青島矢一氏

 第60回(2019年度)エコノミスト賞(毎日新聞社、毎日新聞出版主催)の授賞式が9月10日、東京都千代田区のパレスサイドビルで開かれた。今回の受賞作『イノベーションの長期メカニズム 逆浸透膜の技術開発史』(東洋経済新報社)の著者の藤原雅俊、青島矢一両氏に毎日新聞社の丸山昌宏社長から賞状と賞金100万円、記念品が贈られた。また、出版元の東洋経済新報社には賞状が渡された。

 授賞式で、藤原氏は「プロジェクトが始まった当時、金融危機で日本の産業が大きなキズを負っていた中、次世代産業のけん引役として部材や素材産業が期待を集めていた。仮にけん引するなら、これまでどのように競争優位を構築してきたか、歴史を積み重ねてメカニズムを解明することが重要だと考えた」と研究を始めた動機を説明。「東レの四半世紀を超える長い取り組みは興味深かった」と語った。

 青島氏は「当初はまとめ方がわからなかったが、プロジェクトを進めながら形にしていった。近年の大きな経済の流れは(米国などの)大規模プラットフォーマーが主導しているが、逆浸透膜の研究はまさにアメリカで始まり、小さい密なコミュニティーでノウハウを蓄積していることがわかった」と感想を述べた。

 水と塩類などの不純物を分離するろ過膜の一種「逆浸透膜」は、今では水処理プラントや医療、食品加工などさまざまな用途で使われている。かつては技術が未成熟で、収益性が見通せない分野だった。そんな中、藤原、青島両氏は、技術者への取材や膨大な特許データの分析を9年近くかけて実施。逆浸透膜でイノベーションが達成された過程や、日本の化学産業企業が国際競争力を持つようになったメカニズムを分析した。受賞作は500ページ近い大作。

 選考委員長の深尾京司JETROアジア経済研究所長(一橋大学特任教授)は「今回は豊作の年だった。企業人へのインタビューや学術誌の探査などデータを使った実証研究がなされている」と評価した。

 藤原氏は1978年広島県生まれ。00年一橋大学商学部卒、05年同大大学院商学研究科博士後期課程修了(商学博士)、18年4月より同大大学院経営管理研究科准教授。京都産業大学在任時の10~11年にコペンハーゲン・ビジネス・スクール客員研究員を務めた。青島氏は1965年静岡県生まれ。87年一橋大学商学部卒、89年同大大学院商学研究科修士課程修了、96年米マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院博士課程修了。18年4月より一橋大イノベーション研究センターのセンター長を務める。

 授賞式は当初5月に開催予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でこの日にずれ込んだ。会場もマスク着用や備品の消毒、入場者の縮小などの対策を行った。

 エコノミスト賞は1960年創設。日本や世界経済について実証的・理論的分析に優れた作品に授与される。

(編集部)

(本誌初出 第60回(2019年度)エコノミスト賞 藤原、青島両氏に栄誉 逆浸透膜の開発過程を分析=編集部 20200929)

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