「空き家だらけの日本は新築住宅を建てすぎ」という不動産業界のタブーについて
年間90万戸台の新築住宅を量産する日本で、空き家が増大するのは自明だ。
総務省の2018年「住宅・土地統計調査」で、空き家の数は全国で約848万9000戸だった。
野村総合研究所は33年に1955万戸に増えると推計しており、これは1年ごとに70万戸以上のペースで増える計算だ。
新築住宅が建てられ過ぎであることは疑う余地がない。
15年5月に全面施行された空き家対策特別措置法で、いわゆる「迷惑空き家」は固定資産税を6倍にできることとなった。
このほか、自治体が立ち入りや助言・指導・勧告・命令、行政代執行で空き家を取り壊し、所有者に取り壊し費用を請求できる。
ただ、これはあくまで対症療法に過ぎない。
空き家という「結果」に対処するには、空き家が生まれる「原因」である住宅の過剰供給を抑制する必要がある。
そのためには、多くの国で実施されている「住宅総量目安」または「住宅供給目標」の設定が必須だろう。
このまま新築住宅を建設し続けるのは、長期的に人口減少が見込まれる中で持続可能ではない。
しかも、新築建設による景気対策はごく短期的な効果しかない。
それどころか、長期的には大きなマイナスを生んでいる可能性が高い。
「穴を掘って埋める」といった無駄な公共工事と構図は同じだ。
また、家計が負債(住宅ローン)を抱える分、消費を冷やす効果もあると考えられる。
中古住宅の流通は個人間取引であり、流通そのものは国内総生産(GDP)にカウントされない。
しかし、もし日本の中古住宅が、築年数が経過しても価値を維持することができていれば、「資産効果」によって消費はより活発になっていたはずではないか。
担保価値の上昇によって融資枠が生まれ、投資も増大していただろう。
株式より不動産
米国や英国などで1990年代、株式市場が高騰を続けたが、00年には下落トレンドに転じ03年まで調整局面にあった。
だが、住宅価格は一貫して上昇を続けたばかりか、上昇率はさらに高まった。
当初は株価下落による消費への負の影響が懸念されていたが、経済全体がその後、好調を続けたのは、不動産価格上昇が消費に正の影響を与えた可能性がある。
株式保有は高所得層に偏在しているが、住宅は幅広い所得層が保有しているため、価格上昇がより広範囲に恩恵をもたらしたとみていい。
もっとも、この後は資産バブルに突入してリーマン・ショック(08年)へと続いた。
行き過ぎればどんな市場でもこうした調整は起きる。
日本ではもう何十年も、「大胆な金融政策」と「積極的な財政政策」が取られ、住宅市場では新規の住宅着工を促す政策として働いているが、とうの昔にその政策意義は失われている。
「量の管理」が行われなければ、都心の一等地などごく一部を除き、住宅の価値は下がるばかりだ。
(本誌初出 増える空き家で減る資産価値/70 20201117)
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立