ついにデフレ化の兆候?中国で「1元ショップ」急拡大の衝撃
「中国が世界経済復興のカギを握る」。
10月中旬、中国で最新の経済統計が発表されると、現地報道にはこんな見出しが躍った。
国内総生産(GDP)は今年1~9月、前年同期比0・7%増と今年初めてプラスに転換。
今年、主要国の中で「独歩成長」となる見通しで、同報道は新型コロナウイルス防疫の成果や経済政策の有効性を自賛した。
ただ、V字回復の中身はバランスを欠く。
1~9月の成長率の需要項目別寄与度は資本形成が3・1%増、純輸出が0・1%増、最終消費支出が2・5%減と、投資のけん引力が際立つ。
特に不動産投資は5・6%増と大きく伸び、インフラ投資0・2%増が続いた。
一方、相対的に政策誘導が難しい製造業投資は6・5%減だった。
中国ではコロナショックの後、工業生産の回復が特に早かった。
「過剰防疫」で経済が止まるリスクに危機感を抱いた政府が各地の工場の操業再開を急いだためだ。
鉱工業生産は今年1~2月に13・5%減となったのが底で、4月にはプラスに転換し、9月は6・9%増とコロナ前の水準に戻している。
1~9月の輸出は、コロナの世界的流行にもかかわらず、0・8%減とほとんど落ちていない。
先進国の国民向け現金給付がノートパソコンなどの特需を生み、いち早く工業生産が回復した中国がその生産と供給を担ったのが一因との見方が中国では示されている。
「1元セール」の破壊力
中国の一部のエコノミストの間では、政策支援で投資や生産は増え、また想定外のコロナ特需で景気は回復したが、消費、サービス業主導型へと進んでいた成長構造変化が逆戻りしており、地方政府の債務増や過剰生産リスクが再燃しているとの懸念が出ている。
消費は小売り統計だけを見れば、今年9月単月で前年同月比3・3%増(1~9月は7・2%減)と戻してきている。
だが、足元の物価や消費市場のトレンドを見ると、市場のゆがみや需要の弱含みは否定できない。
食品とエネルギーを除いた消費者物価指数(コアコアCPI)の上昇率は、景気回復後も下がり続けて9月はわずか0・5%に。
1~9月の全国の都市住民の平均可処分所得(実質ベース)も前年同期比0・3%減と、前年割れした。
消費市場では両極端の動きが目立つ。
高級車販売や国内リゾートでの消費が好調の一方、電子商取引(EC)大手アリババの「1元セール」のような価格破壊が起きている。
毎日、米(750グラム)やバスタオルなどの約10品目、各数万点を送料込みで1元(約16円)で販売。
アリババは実店舗の「1元ショップ」を3年間で全国に1000店展開する計画も示している。
これらの動きを「消費の二極化」と捉えるのは早計だ。
大都市の高所得者の間でも「1元ショップは気になる。日用雑貨や台所用品なら、モノが良ければ安物で十分」という声が少なくない。
仮に地域や所得層を問わず、中国の消費市場全体に価格破壊の波が広がれば、デフレ圧力にもなり得る。
消費市場のゆがみや弱含みの背景には、コロナだけではなく、家計債務や所得格差といった構造問題がある。
コロナショックからの景気回復の自律性を測る上で、GDPよりも所得やCPIといった指標の動きが注視される。
(岸田英明・三井物産〈中国〉有限公司チーフアナリスト)
(本誌初出 「独り勝ち」経済の足元で消費市場にゆがみと弱さ=岸田英明 20201117)