アメリカ連邦最高裁のバレット新判事も所属する「謎の宗教団体」の正体
米連邦最高裁のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の死去に伴い、後任の人事案が上院で承認され、エイミー・コニー・バレット判事が就任した。
女性の権利向上に大きく貢献したリベラルなギンズバーグ氏に対し、敬虔(けいけん)なカトリック教徒であるバレット氏は保守的な価値観を持ち、2人は対照的だ。
保守派判事を最高裁に送り込むことを成果として掲げたかったトランプ大統領と与党・共和党の政略から、大統領選直前の、異例の「駆け込み承認」となった。
ただ、バレット氏自身の経歴も異例ずくめだ。
家族は夫と、ハイチ系の養子2人を含む子ども7人。
最年長のエマさんは19歳の大学生で、最年少は8歳のベンジャミン君。
48歳と若く、子育てをしながらの最高裁勤務となる。
カトリック系の保守
出身法科大学院は、カトリック系のノートルダム大。
3年前に連邦控訴裁判所の判事に就く前は、母校の教授を務めていた。
最高裁判事は東部の一流校「アイビーリーグ」の出身者が圧倒的に多い。
現在もバレット氏を除いた最高裁判事8人の出身法科大学院は、ハーバード大4人、エール大4人だ。
ノートルダム大からの最高裁判事は初めてだ。
それ以上に注目を集めたのが、バレット氏の宗教的な背景だ。
近年の共和党はキリスト教右派との関係が深い。
キリスト教右派とは、一般的には、プロテスタント系の中で原理主義的な「福音派」として分類される複数の宗派を指す。
だが、カトリック保守の影響力も大きく、福音派とは人工妊娠中絶に反対する立場などで親和性が高い。
カトリック保守のバレット判事の誕生に、福音派の共和党支持層も沸いている。
さらに、バレット氏は、実態がよく分からない「ピープル・オブ・プレイズ」(たたえる人々)というキリスト教系団体のメンバーであることが『ワシントン・ポスト』紙などの調査で判明している。
メンバーは約1700人で大半がカトリック教徒。
1971年にノートルダム大のある中西部インディアナ州サウスベンド市で誕生した。
実際に何をしているかは不明な点が多いが、教会に通う以上に「より激しい宗教経験」をすることが目的とされる。
未婚者が既婚メンバーの家に住むなど共同生活をすることも推奨されているようだ。
家庭内の男女の役割は、かなり保守的に解釈されているという。
ポスト紙によると、バレット氏は2010年時点で「ハンドメイド」(女中)という肩書の立場にあった。
地域のリーダー格として、メンバーの女性に対し、子育てや結婚に関してアドバイスするのが任務だったという。
野党・民主党の上院議員は一人もバレット氏の人事案に賛成しなかった。
進歩的な政策について、時計の針を逆行させるのではないかと警戒を強めている。
バレット氏は、ホワイトハウスであった就任の宣誓式の後、「判事は、議会や大統領だけではなく、自らの私的信条からも独立していなければならない」と宣言した。
憲法の条文を文字通りに解釈するというのが基本姿勢で、宗教的信条を差し挟む余地はないと訴えたかったようだ。
その言葉をそのまま受け止めてよいかは今後の仕事ぶりを見極める必要がある。
(古本陽荘・毎日新聞北米総局長)
(本誌初出 謎多い宗教団体にも所属 最高裁のバレット新判事=古本陽荘 20201117)