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経済・企業 コロナに勝つ転職

コロナが転職市場を一変?東京をはじめとする大都市の人材がぞくぞく地方企業へ転職しているワケ

大企業では「当たり前」と思っていたことが地方では価値を持つことも……(Bloomberg)
大企業では「当たり前」と思っていたことが地方では価値を持つことも……(Bloomberg)

「コロナ禍で首都圏に営業になかなか行けない。ならば、首都圏の人に副業で、新規顧客の開拓に向けた情報収集をしてもらったら、ビジネスの裾野も広がるのでは」。

山形県河北町にあるプラスチック加工会社、高梨製作所の高梨健一社長は、副業を募集したきっかけをこう振り返った。

正社員7人、パート11人の同社は現在、3人の副業を受け入れている。

主要な取引先は首都圏にある産業機械や家電、自動車向けの部品メーカーだが、副業人材には「我々がこれまでタッチしていなかった業界と巡り会えるチャンスを期待している」と言う。

9月から同社で副業を始めた水島聡さん(56)の本業は、地理情報システム(GIS)ソフトを提供するインフォマティクス(川崎市)の営業マネジャーで、新規顧客への営業経験が長い。

さらには定年後を見据えて今年3月、中小企業診断士の資格を取得。

診断士仲間とのつながりも生かして高梨製作所の製品の販売先や協業先につながる情報がないか聞いたり、大手企業の研究開発部門と中小企業の技術をマッチングさせるオンラインイベントに参加したり、と情報集めに奔走。

水島さんは「製造業は経験したことがなくまだ手探りだが、新しいことにチャレンジできるのは面白いし、定年後の働き方の選択肢も増える」とやりがいを語る。

副業人材の情報収集で商談まで至ったケースはまだない。

ただ、新製品の開発や販路につながる手応えはある。

同社は、マスク着用時に耳が痛くならないようにゴムひもを後頭部で固定するプラスチック製品を開発中。

水島さんとは別の介護関係のコンサルティングが本業の副業人材から「介護施設ではみんな同じマスクをするので、外すと誰のものか分からなくなる」という声を聞き、試作品を色づけするなど改良につながった。

「半年程度で商談の橋渡しまでできれば御の字」と高梨社長。

「従来の請負の仕事だけでは生き残れない。未知の業界のニーズも取り込んで、新しい販売先や自分たちで値付けできる独自製品の開発につなげていけたら」と大都市圏の人材の人脈に期待をかける。

手を動かす人を求む

こうした大都市圏でビジネス経験を積んだ人材を求める地方企業は増えている。

「コロナ禍は副業マーケットには追い風となった」。

大都市圏の副業人材を地方企業に仲介するスタートアップ、JOINS(東京都千代田区)の猪尾愛隆社長はこう話す。

仲介サイトに求人を出す地方企業は今年9月末時点で243社となり、今年1月から約6倍に急増。

副業を希望する個人の登録者数も3527人となり、2倍以上に増えた。

中でも「オンライン販売の強化や、勤怠管理にクラウドソフトを導入したい、といった業務のデジタル化を急ぐ中小企業が急激に増えた」と猪尾社長。

デジタル化といっても人工知能(AI)などの最先端技術というより、むしろ既存のデジタル技術を使った業務効率化が求められているのだ。

そんな中で活躍するのは「大手企業で役員まで出世した人よりも、現場が好きで自ら手を動かしてきたおじさん」だと言う。

「オンライン面接での選考が浸透したことで、地方の会社が都市部の人材を採用しやすくなっている」と指摘するのは、人材紹介会社エン・ジャパンが35歳以上を対象とした転職サービス「ミドルの転職」の天野博文事業部長だ。

わざわざ地方に行かなくても気軽に面接が受けられるので、敷居は下がっていると言う。

面接だけでなく、業務自体もオンライン化が進む。

テレワークが可能なIT系の求人は、都市より地方の方が伸びが大きい(図)。

東京や大阪など8都府県では1月から9月にかけて4・3倍に増えたが、8都府県以外では10・3倍に急増している。

こうした動きを受け、自治体が都市部と地方企業を仲介する動きも広がる。

新潟県は、都市部の人材と県内の中小企業をマッチングするサービスを今年度内にも始める。

副業が「本業」に

地方でのリモート副業を複数こなしていくのが「本業」に変わるケースもでてきた。

大手電機メーカーのグループ会社で財務・経理部門の管理職を務める山内隆さん(仮名、52)は現在、土日や勤務前後の時間を使って大阪府や長野県などの企業で4件のリモート副業をしているが、来年7月には本業の会社を早期退職し、経営コンサルタントとして独立する。

「今やっている副業が本業になる感じですね」と話す。

本業では決算業務から経理全般まで経験。50代を過ぎて定年後の独立を意識し始め、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格を取得、クラウド会計システムを導入して会計業務を効率化する仕事を中心に副業を始めた。

相手先の企業にヒアリングして、どの会計ソフトを入れて、どう効率化するかを提案する。

「大企業の中にいると当たり前と思っていたことが、中小企業ではかなり価値があることが副業で分かってきた」と山内さん。

得意とする企業の資金繰りに関する仕事も、コロナ禍で今後ニーズが高まると考え、独立を決めた。

「将来の独立を考えている人は、仕事が丁寧。短期間で成果も出してくれる」。

12人をオンライン面接した中から山内さんを採用した人材コンサルティング会社ソリューション(大阪市)の長友威一郎代表はこう評価する。

コロナ禍を経て8月ごろから副業の受け入れを検討し始めたという長友さんは「テレワークの普及で大企業の優秀な専門人材を副業でとりやすくなった。そういった人材をスポットで取り入れた方が成長スピードも上がる」と考えている。

人手不足に悩む地方の企業にとっても、定年を前に「次のステップ」を思い描く大都市圏の人材にとっても、地方企業での副業は「一歩」を踏み出すきっかけになるのかもしれない。

(岡田英・編集部)

(本誌初出 コロナで追い風 地方は大都市の人材を求める リモート副業のススメ=岡田英 20201124)


自治体も募集続々 倍率250倍超も

地方自治体でも都市人材を登用する動きが広がり、応募が殺到している。

神戸市は9月、広報業務に関する副業人材を「フルリモートワークOK」で40人募集。

約1カ月で約30倍の1200人超の応募があった。

これとは別に常勤職員「デジタル化専門官」も3人追加募集し、約300人が応募した。

このポストでは今年、ファーストリテイリングで商品管理システムの業務に携わった経験者ら2人を既に採用していた。

奈良県生駒市も昨年10月、デジタル化やPR、観光企画、教育改革など7分野で1人程度ずつ募集し、1025人が応募。

最も人気の観光企画は倍率259倍に上った。

結局、首都圏の3人を含む9人を採用し、今年4月から働いている。

うち常勤(任期なし)は3人。残りの6人は副業でうち5人はテレワークという。

来年度も募集するかは「今回、予想以上に集まったこともあり、検討したい」(人事課担当者)という。

(岡田英)

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