経済・企業コロナに勝つ転職

「成績下位5%は自動的にクビ」の会社が「コロナで人を採用しやすくなった」と語る驚きの現実

    ビルのメンテナンス業務はコロナをへても堅調(Bloomberg)
    ビルのメンテナンス業務はコロナをへても堅調(Bloomberg)

    相次ぐ「コロナリストラ」で中高年はどこへ向かうのか。

    その一端を、コロナ前から人手不足にあえいでいた業界をのぞくと、うかがうことができる。

    1日応募30~40人

    「9月に入ってから、就職希望者が急増した。1日に30~40人の応募があり、コロナ禍で打撃を受けた業界の中高年が多い」。

    ビルのメンテナンスや不動産売買仲介などを手掛ける新栄不動産ビジネス(東京都新宿区)の新田隆範社長は、こう明かす。

    中には「米ニューヨークで45年働いたすし職人がコロナ禍で失業し、帰国して当社に入社し、その英語力を生かして都内の外国大使館で清掃業務に就いた例もある」と言う。

    新型コロナウイルスの感染拡大前、同社は人手不足に直面していた。

    今年開催予定だった東京五輪・パラリンピックに向けて大規模再開発が相次ぎ、ビル清掃や警備、ホテルのベッドメーキングといった仕事が大量にあふれていたからだ。

    ところが、コロナで「人手不足」が一転した。

    企業経営への影響が深刻化した秋口から、就職希望者が一気に膨らんだのだ。

    募集しているのは営業のほか、空調などの設備技術者、1級建築士や建築施工管理技士、事務・管理、清掃や警備といった現場作業員に至るまで幅広い。

    応募者は外食やタクシーといったコロナで打撃を受けた業界を中心に広範な業界に及ぶ。

    子供の教育や親の介護に迫られ、これからの生活に不安を抱える40代以上の中高年が目立つという。

    応募が急増したため、書類審査で10分の1に、面接でさらに10分の1に絞り込んで採用している。

    つまり、応募者100人につき採用は1人という“狭き門”だ。

    高倍率の中で、何をポイントに採用を決めているのか。

    「大手で上級管理職だった人は採る。状況変化への対応能力、対人能力が高いからだ。その意味では、すし職人のような外食やサービス業で接客経験のある人もいい」

    新田社長は適応力やコミュニケーション力を重視する。

    テレワークの普及で都市部のオフィスビルの空室率が上昇する中、クライアントの所有するビルに新たなテナントを誘致する営業力も、求める能力の一つだ。

    さらに最近では、外資系ファンドに英語で営業ができる人材の拡充も急ぐ。

    世界的な金融緩和であふれた資金が東京の不動産に流入しており、外資による東京の大型ビルへの投資がこれから本格化すると見込まれるからだという。

    ただ、採用後3カ月で3割は退社してしまうそうだ。

    特に、終身雇用に甘んじて「前の会社ではこうだった」などと、頭を切り替えられない人はたいてい辞めていく。

    同社では75歳まで働けて、親の介護などに対応する「立ち寄り」や「早帰り」といった柔軟な働き方が可能だ。

    前職での地位、年齢、性別、学歴、国籍なども一切問われない成果主義を徹底している。

    毎年、下位5%の人材は「クビ」になる。

    米企業では一般的だが、日本企業では珍しい。

    「会社全体のレベルを上げるためには必要」と新田社長は言う。

    従業員数は約500人。

    以前からソニーや日産自動車といった大手企業からの転職者は多かったが、東大卒で大手企業から途中入社した人が「クビ」になった前例はあった。

    もっとも、解雇に至る前には3回は配置転換する。

    逆に、3回目の配置転換で未経験だった営業で能力を発揮し、執行役員に出世した60代女性もいる。

    緊急事態宣言が発令された4月、エレベーターのボタンやドアノブ、オフィスの机やコピー機など人がよく触る部分を徹底清掃する「特別(コロナ)清掃」のサービスを始めると、大好評。

    「もっと人が必要な状態」(新田社長)という。

    現在は、在留資格を持つ外国人労働者の配偶者(主に夫人)を主力に社内から希望者を募ってなんとかまかなおうとしている。

    ちなみに、こうした外国人配偶者の時給は2500円に達する。

    コロナ以降に台頭している新ビジネスが、さらなる人の受け皿になりそうだ。

    紹介手数料の値引きも

    慢性的な人手不足に悩まされてきた介護現場にも、求職者の大波が押し寄せる。

    福島県内にある介護施設の事務長は「人材紹介業者からの紹介数が、4月から1割ほど増えている。外食などコロナで職を失った人が目立つ」と明かす。

    こうした介護施設への人材紹介業者は、東京や京都、仙台などの都市部にある。

    就労希望者は紹介業者に登録し、業者がメールやファクスで施設担当者に案内を流す。

    紹介により就職が決まった場合、施設側は業者に手数料を支払う仕組みだ。

    事務長によれば、この手数料は「就職者の年収の3~4割」。

    介護職員の年収は300万~400万円程度とされるから、1人当たり約90万~160万円程度の手数料をとられる計算だ。

    事務長は「高すぎる」と憤る。

    ただ、最近は紹介数の増加とともに、紹介業者間での競争も激しくなっているようだ。

    手数料を年収の「1割でいい」という紹介業者が現れ、事務長は11月中にこの業者と面談する予定という。

    紹介業者を介さない直接の就職希望者も増えつつある。

    事務長によると、20年以上も働いた居酒屋がコロナのあおりを受けて閉店し失業した50代の女性を最近、特別養護老人ホームで採用した。

    「接客に長(た)け、入所者の評判は良好」と言う。

    就職希望者は20~50代で女性が多い。

    40代以上を採用する際、経験に加え、人物として「応用が利く人かどうか。今の現場リーダーと合うかどうか」が判断基準。

    転職が多い場合、「どうして前職を辞めたのですか」という質問から入る。

    「人材の層は薄く、辞められるのが本当に痛い。でも、コロナで人をとりやすくなった」と事務長は話す。

    個人事業主の心意気

    前出の新栄不動産の新田社長は、2000年に経営破綻した千代田生命の元課長。

    自身が解雇という「どん底」を経験したが、「個人事業主のようなサラリーマンがこれから求められる。仮に失業しても、前の自分から切り替えられるなら、あなたを必要とする仕事は必ずある。前を向いて」と呼びかける。

    (永井隆・ジャーナリスト)

    (本誌初出 ビル管理、介護 中高年人材「受け皿」の現場 “狭き門”突破する適応力=永井隆 20201124)

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