教養・歴史第91回都市対抗野球大会

ついに開幕した都市対抗野球がコロナ禍でとった施策に「意外な高評価」のワケ

    昨年優勝した千葉市・JFE東日本
    昨年優勝した千葉市・JFE東日本

    「開催できるのか」

     日本野球連盟(JABA)が4月2日、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、社会人野球日本選手権と全日本クラブ野球選手権の中止を決めると、11月の都市対抗野球大会に焦点は移った。

    高校野球は春、夏と中止となり、プロ野球は開幕を3カ月遅らせての開催となっていた。

    6月以降、JABAは加盟チームとの調整や開催会場の東京都、東京ドームのある文京区との協議を経て、7月2日に開催を決定。

    9月から「例年の4分の1程度の実戦だけのぶっつけ本番」(TDKの佐藤康典監督)の予選を終え、11月22日から32チームによる熱戦が繰り広げられる。

    今大会にはこんな大応援はない(NTT東日本、第89回都市対抗)
    今大会にはこんな大応援はない(NTT東日本、第89回都市対抗)

    チームの大応援なし

    恒例の大応援やチーム動員、特定試合シード(詳細は後述)なしの異例ずくめの大会となる。

    コロナ感染防止の観点から内野席のみ、1万人以下の観客で開催する。

    「応援がないのは寂しいが、大会ができる喜びのほうが大きい」(日立製作所の和久井勇人監督)と、感謝の言葉を口にするチーム関係者が多いものの、例年と大きく異なる大会に戸惑いが隠せないのも事実だ。

    本誌が出場する32チームにアンケートを実施したところ、戸惑うこととして一番に挙げたのが、チームとしての応援がないことだった。

    「応援のない都市対抗って何だ?」(ENEOSの大久保秀昭監督)。複雑な心境を明かす監督は少なくない。

    その一方で、「応援がないことは残念だが、逆に7年ぶりの本大会出場で選手が緊張しなくていいかもしれない」と、TDKの佐藤監督は前向きにとらえる。

    また、コロナ禍での調整の難しさも各チームに共通する。

    その一番として「選手・スタッフの健康管理」を挙げた。

    これに「選手・スタッフのモチベーション維持」「自主練習の進め方」が続く。

    多くのチームが活動を本格的に再開したのは6月以降だった。中には7月からのチームもある。

    しかし、「開催を信じて、9月の予選に向けて仕上げてきた。実戦不足は否めないが、コロナ禍という条件はどこのチームも同じ」(ヤマハの室田信正監督)と、決して言い訳にはしない。

    プラスに捉えた監督も少なくない。

    日本新薬の松村聡監督は「自分を見つめ直す時間ができたことから、人間として、また、チームとして成長できた」と、振り返る。

    地方チームを土日の試合に

    特定試合シードがなくなったことについても、多くの意見が聞かれた。

    特定シードとは、一定数以上の観客動員を条件に事前申請したチームを指定の試合日・時間に割り振る都市対抗独自の制度である。

    大量動員ができるチームに土日や祝日の試合を割り当て大会を盛り上げようと、2007年から始まった。

    だが、最近は「カネで有利な枠を買っている」「チケットを使い切れないチームまで無理して買っている」といった批判的な声が上がっていた。

    コロナ禍の大会で、チームによる動員そのものがなくなり、特定シードもない大会となった。

    アンケートでは、特定シードがないことに戸惑うと回答したチームが2チームあったが、監督の評価は必ずしも悪くない。

    「ないほうが公平感があっていい」

    「抽選会前から対戦相手がほぼ見当がつき、緊迫感に欠ける」

    「波乱含みの大会になる」……。

    日本通運野球部で18年間マネジャーを務め、現場を離れた今なお社会人野球のご意見番として知られる大岸貴仁氏は、「主に首都圏の有力チームが大量動員を目的に特定シードを使ってきたが、私は逆ではないかと常々疑問に思ってきた」と、次のように語る。

    「有力チームは平日でも、1万人以上を動員できるだろう。九州や北海道、東北といった地方のチームに土日や祝日を割り当て、1試合当たり購入する数千枚のチーム券を無駄にせず、実際に試合を観戦してもらって、一人でも多くの都市対抗ファンを作るべきではなかったか」

    出場チームは、1試合ごとに数千枚単位のチーム券を購入する。

    特定シードと合わせた、このチーム券が大会運営を支える収益源となっていたが、チームにとっては負担だったことは否めない。

    ある地方の企業チームは「都市対抗の本大会に出場すると、2000万円以上はかかるが、それでも最低レベル」と明かす。

    コロナ禍は、この収益源を直撃する。

    1試合最大1万人の観客だが、「ならせば、7000~8000人といったところに落ち着く可能性が高い」(関係者)と見られている。

    一方で、例年にないコロナ対策費用が加わり、「収支はよくてトントン、赤字も覚悟しなければならない」(同)。

    しかし、チーム券に依存した収支構造は、従来からの課題だった。

    コロナが、この構造問題を改めて浮き彫りにしたとも言える。

    昨年は90回の記念大会で36チームが出場したという事情もあるが、1990年以来の有料入場者数60万人を超えた。今年は大きく減少する可能性が高い(図)。

    コンパクトな運営

    「コロナを機に社会人野球の存在意義が、問われている」と、ENEOSの大久保監督は投げかける。

    セガサミーの初芝清前監督も同じ問題意識で、大会の時期について11月開催も一つの案とする。

    いつ、終息するか予断を許さないコロナ禍は、チームを支える母体企業の体力をむしばみ続ける。

    製造業からサービス業、さらにIT・デジタルへと産業構造の変化を加速させている。

    三菱重工業が来季から東西2チームに再編。

    その一方で、創部2年目、都市対抗初挑戦で予選を突破したデイサービス(通所介護)のハナマウイ(千葉県富里市)の存在は、時代の変革を感じさせられずにはいられない。

    かつては200を超えていた企業チームが100を切るまでに減少。

    逆に一つの企業ではなく、地元企業や出身者が集まって作るクラブチーム数は250を超える。

    アンケートには、コロナ禍の悲痛な声もあった。

    「チームどころか、母体企業の存亡の危機」

    「業務への影響が大きく、5月までは野球をできる環境になかった」……。

    社会人野球は大きな転機を迎えている。

    前出の大岸氏は、社会人野球の将来像をこう示す。

    「コンパクトな運営がカギになる。本当の意味で仕事と野球の両立、必要最小限の活動費で、最大の効果を生み出す方法を考えないといけない。従来の強豪チームとは違うやり方で勝負に勝ち、全国制覇を目指すことだ」

    JABAの危機感は強い。

    SNS(交流サイト)を活用し、若者や女性などファンの裾野の拡大を図る一方で、公認グッズの販売で収益源の多様化を目指す。

    「コロナ禍は我々にも考える時間をくれた。存亡の危機をチャンスに変えたい」。

    JABAの谷田部和彦専務理事は決意を新たにする。

    (浜條元保・編集部)

    (本誌初出 コロナ禍の異例の開催 シードなし波乱の大会=浜條元保 20201124)

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