不正は可能? 大統領選の郵便投票用紙を入手して分かった驚きの事実
今年の大統領選挙の最大の争点は新型コロナウイルスへの対応だったが、その副産物としてにわかに脚光を浴びたのが郵便投票制度だった。
日本には期日前の不在者投票はあっても郵便投票制度がないので、どういうものなのか気になっていたところ、10月上旬のある日、アパートのポストに投票用紙が2通入っていた。
以前この部屋に住んでいたと思われる複数の人宛てのダイレクトメールがよく届くが、それぞれの封筒には見覚えのある、元住人の名前が印字されていた。
これまでは全米で5州だけが有権者登録している全州民宛てに郵送用の投票用紙を無条件で配布していたが、今回の大統領選では、コロナ下での投票所の混雑を避けるために、いくつかの州・地域がこの方式を採用した。
多くの州は有権者からの請求に基づき郵送用の投票用紙を交付しているが、筆者の住むワシントンDCは自動的に送付する方式を選んだ。
意外と思うかもしれないが、米国には住民票や住民基本台帳が存在しない。
投票するには自らオンラインか地元の役所へ赴いて有権者登録を行う必要がある。
転入届も転出届もないので、積極的に登録を抹消しない限り、冒頭で触れたように、もはや住んでいないのに投票用紙が届いてしまう。
ただし返信用封筒に署名をする必要があり、これが有権者登録時の署名と一致しないと無効になる。
一応は、第三者が勝手に流用することはできないようにはなっているが、偶然とはいえ投票権のない筆者でも入手できてしまうのであれば、「郵便投票は不正の温床」というトランプ大統領の主張もあながち荒唐無稽(むけい)とは言い切れないような気がした。
さて、肝心の投票用紙だが、A3用紙を少し細くした「リーガル版」と呼ばれるサイズで、思いのほか大きい。
答案用紙をほうふつとさせるマークシート方式で、個人名・党名を枠内に書き込む日本の小さな投票用紙とは趣きが異なる。
紙の両面に正副大統領、連邦議会議員、市議会議員、教育委員などの候補者名が並び、カテゴリーごとにひとつずつ塗りつぶす。
ご丁寧に記入要領は英語・スペイン語併記になっている。
ネットで到達確認
投票用紙は内封筒に入れ、それを更に返信用封筒に入れて投函すれば完了だ。
返信用封筒には固有のバーコードが印刷されていて、無事に選挙管理委員会に受理されたか、オンラインで確認できる。
ワシントンの場合、投票日(11月3日)の消印さえあれば、同13日までに届いた投票用紙が有効と見なされカウントされる。
経営状況が思わしくない米国郵便公社の遅配に対応するために余裕を持たせているわけだが、面積が東京都の1割にも満たない域内の配達に10日間も待つ必要があるのだろうか。
むしろ、正式な集計結果をなかなか公表できずに混乱することの代償が大きい気がする。
2016年の大統領選挙時の約7割相当の票が期日前に投じられた。
一方で、選挙のプロセスに関して投票日を前に200件以上の訴訟が起こされていて、司法の判断が勝敗を左右する可能性も否定できない。
本稿執筆時点では結果は出ていないが、成熟した民主主義国家らしく平和裏に選挙が完了することを祈るばかりだ。
(吉村亮太・米州住友商事会社ワシントン事務所長)
(本誌初出 偶然の用紙入手で見えた 郵便投票の現実=吉村亮太 20201124)