これから年末にかけてやってくる「コロナリストララッシュ」の恐怖……降格が容易なジョブ型雇用の導入とのダブルパンチが日本のサラリーマンを襲う
コロナ禍の業績悪化による人員削減の動きが本格化している。
引き金となったのが今年度中間決算だ。
ある建設業の人事部長は「4〜6月期は大幅な減益となったが、その後どうなるのか経営陣も読み切れていない。中間決算を見て2021年3月期決算が赤字の見通しになれば来年度も含めて2期連続の赤字は絶対に避けたい。業績次第では希望退職に踏み切る可能性もある」と語っていた。
リストラは退職費用など当期だけの特別損失(特損)で処理できることから、来期に人件費削減分の利益を生み出すための常とう手段として一般化している。
そうなると今期に続き21年度の2期連続の赤字を回避したい企業による早期・希望退職募集が今度も続出することになる。
決算赤字予想で決断か
通常、早期・希望退職募集に際しては事前の準備を含めて3カ月ほどの期間がかかる。
公表前に不採算部門の整理・縮小などの事業計画の見直しによる経費削減目標を策定するが、その中には人員削減規模と部門ごとの削減人数を決めなければいけない。
人事部門は各部門の削減人数を確定し、実施公表後に部門長による全員の面談を設定。
その中で残ってほしい社員の慰留とリストラ対象社員の退職勧奨も行われる。
このスケジュールを考えると年末にかけての募集の公表、翌年1月中に募集開始、3月末退職というシナリオが描ける。
10月30日に1200人の希望退職の実施を公表したLIXILグループの募集期間は来年1月12〜22日。退職日を3月25日としている。
また、検討中の企業も少なくない。
東京五輪関連の案件が軒並み中止・延期となり打撃を受けているイベント関連企業の人事部長は「すでに固定費額が大きい中途採用の中止、広告宣伝費、交際費の削減を続けているが、業界でも賞与カットなど賃金の削減に踏み出した企業や中高年のリストラを検討している企業もある。
第3四半期(10〜12月)決算前に通期の赤字が予想された場合、年末にかけて一気に希望退職募集に踏み切る企業が出てくるだろう」と指摘する。
特に中高年社員は人件費の削減と年齢構成の是正という観点から標的となりやすい。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(19年、従業員1000人以上)によると、管理職が従業員の24%を占め、課長級は45〜59歳が約7割に達している。
今回のリストラではポストコロナを見据えた事業再編と並んで抜本的な人事制度改革に踏み切る企業が多いと予想される。
前出のイベント会社の人事部長も「年功序列の廃止や厳格な賃金制度の検討を進めている」と語る。
その代表が、話題の職務給型(ジョブ型)の賃金制度だ。
管理職の56%がジョブ型へ
ジョブ型は求める役割や成果を具体的に示したジョブディスクリプション(職務記述書)を基に人を任用する。
職務範囲や評価基準が明確なためにテレワークと相性がよいとされ、実際に米系人事コンサルティング会社マーサージャパンには、コロナ以降ジョブ型に関する企業の問い合わせが増えているという。
同社の「ジョブ型雇用に関するスナップショットサーベイ」(9月16日)によると、雇用のあり方をジョブ型に変えていく日系企業は管理職で現状の36%から3〜5年後には56%、非管理職は現状の25%から42%に増加するとの結果が出ている。
企業にとってジョブ型のメリットは、固定費である年功的賃金制度から職務の変更(降格・ポストの削減など)による降給など人件費をコントロールできるところにある。
加えて、年齢や勤続年数など個人の要素によって支給される家族手当や住宅手当などの属人給も必要ない。
キヤノンはじめジョブ型を導入した企業の多くが家族手当などの諸手当を廃止している。
正社員と非正規社員の待遇格差を巡っては10月の最高裁の判決や上告不受理決定によって扶養手当や住宅手当などの諸手当を非正規社員に支給しないことが不合理と判断された。
非正規社員に諸手当支給を避けたい企業がジョブ型を選択する可能性がある。
さらにジョブ型導入は今後、継続的なリストラの引き金になるかもしれない。
前出のマーサーの調査ではジョブ型導入企業の増加について「日系企業における新卒採用については、一括採用は減少し、職種別採用およびコース別採用の割合が増加。同じく雇用調整においては、PIP(Performance Improvement Plan、業績改善計画)の適用、降格・降給、退職勧奨の割合が増加し、従来の企業と個人の関係性の前提であったメンバーシップ型雇用からの脱却を目指す姿勢が明確となった」と述べている。
Dランク社員に退職勧奨
PIPは米国企業が導入し、一部の日本企業でも導入しているリストラ手法だ。
具体的には人事評価が低い社員に新たな改善目標を設定し、達成できなければ退職させるという仕組みだが、あえて達成不可能な目標を設定し、退職に追い込む企業もある。
過去には米国の総合電機メーカーのゼネラル・エレクトリック(GE)もこの手法を使っていた。
ある米系アパレルメーカーの人事部長は「職務、行動評価ともに高い人はAランク、職務評価は高いが行動評価が平均より低い人はBランク、職務は平均より低いが行動評価が高い人がCランク、職務、行動評価ともに低い人がDランクにそれぞれ分類される。PIPの対象となるのはDランクの社員」と明かす。
Dランクの社員は2割程度存在し、米国本部から毎年2割を削減するように催促されるが「日本の雇用法制では難しいという理由で1割程度に収めている」(人事部長)という。
日本のように曖昧な評価基準でリストラ候補者を選別するのではなく、明確な評価基準に基づいて候補者を選別し、PIPによって退職勧奨を行い、組織の新陳代謝を促すのがジョブ型のリストラ手法だ。
コロナ禍の業績悪化によって経済が縮小し、「8割経済」を余儀なくされている。
一方、デジタルトランスフォーメーション(DX)による省人化なども進んでおり、業界によっては人員削減は避けられない流れだ。
今年の年末から本格化する「コロナリストラ」は来年以降もジョブ型とセットになって加速していく可能性もある。
(溝上憲文・人事ジャーナリスト)
(本誌初出 リストラ続出1 「年末募集、3月退職」シナリオ 人件費抑制でジョブ型とセット=溝上憲文 20201124)