経済・企業コロナに勝つ転職

即戦力の求人は堅調 IT経験が広げる行き先=岡田英/加藤結花

    コロナ禍で自らのキャリアを見つめ直す人も多い (Bloomberg)
    コロナ禍で自らのキャリアを見つめ直す人も多い (Bloomberg)

     <「リストラにも負けない」 コロナに勝つ転職>

    「経営者として会社がつぶれないように、持続的に成長するように、早く手を打つ必要がある」。LIXIL(リクシル)グループの瀬戸欣哉社長は10月30日の2020年7~9月期決算説明会でこう述べ、1200人の希望退職を募集すると発表した。対象はリクシルの40歳以上かつ勤続10年以上の正社員。今年2月にも、50歳以上で勤続10年以上の正社員を対象に早期退職を募集し497人が応募しており、リストラをさらに加速させた格好だ。(コロナに勝つ転職)

     日立金属は約1000人、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスは約900人──。早期・希望退職を募る上場企業の発表が矢継ぎ早に続いている。東京商工リサーチによると、その数は72社(10月末時点)。既に19年(35社)の2倍以上で、20年はリーマン・ショック後の10年(85社)の水準に迫る勢いだ(詳しくはこちら)

     早期・希望退職の応募者に、リストラする企業の費用負担で人材会社が次の仕事を探すのをサポートする「再就職支援」のサービスも急増。同サービスで最大手のパソナによると、今年9月の支援開始件数は前年同期比で6割も増えた。西谷誠執行役員は「早期・希望退職は年末や年度末が多いので、これからもっと増えるだろう」と見込む。

     転職者数はコロナ前までは9年連続で増え、19年は351万人と比較可能な02年以降で最多となっていた(図1)。コロナ禍で20年4~6月の転職者数は前年同期比で4・7%減ったが、加速するデジタル化を進める人材は十分に供給されているとまでは言えない。

     日本総研の山田久副理事長は「転職の動きは全体としてはスローになっているものの、デジタルの分野で急成長している企業は多くあり、人材を巡るミスマッチが生じている」と指摘する。

    コンサルや不動産も

     転職市場全体としては厳しくても、即戦力となる経験者の求人は堅調だ。人材サービス会社エン・ジャパンによると、35歳以上を対象にした求人サイト「ミドルの転職」の今年10月時点の掲載求人数は、前年同月比で12%増加。天野博文事業部長は「企業業績が悪いからこそ、デジタル化や構造改革を進める人材を外部から採用したい需要も大きい」と話す。

     中でも求人数が最も伸びているのが、IT系だ。「IT・インターネット・ゲーム」の10月1日時点の掲載求人数は前年同月比で約5割増加。「コンサルティング」や「建設・不動産」も約4割ほど増えている(図2)。

     IT系といっても、必ずしも最先端の技術が求められるわけではない。「エンジニアの需要はもちろん高いが、経営企画や情報システムといった部署でエンジニアとの『橋渡し』ができる人の需要も大きい」と天野部長。デジタル化のニーズが高いのはむしろIT系以外の業界で、対面販売からオンライン販売へのシフトや、社内のシステムをデジタル化することで業務効率化を図るような仕事が増えており、「IT関連業務の経験者は就業先の幅がすごく広がっている」と言う。

     コロナ禍で転職したい、という思いが強くなった人は増えている。同社が「ミドルの転職」の35歳以上の利用者に6月にインターネット上でアンケート調査したところ、約4割が新型コロナウイルスの流行で「転職意向が強まった」と回答。7~8月に転職を考えた理由を聞いた同様の調査では「会社の将来に不安がある」が40%で最も多く、「会社の考え・風土が合わない」(37%)や「給与に不満がある」(32%)を上回った。転職市場全体としては厳しさを増している中でも、転職意向は弱まるどころか、むしろ強まっているのだ。

    安定志向に

    「コロナ禍で、事業が持続可能な企業とそうでない企業がはっきりした。先行き不安な会社と伸びている会社を選別できるようになり、転職を検討していた人は判断の後押しになっている」と天野部長は分析する。コロナ禍で、企業や業界の見極めはしやすくなっているとも言えそうだ。

     転職の目的も変わりつつある。「長期的、安定的に働きたい」が増え、従来は最も多かった「年収を上げたい」は低下傾向。年収は多少下がっても、企業の将来性や働き方を重視するようになってきているという。働き方では、リモートワークができるかどうかも、求職者にとっては判断の一つの指標になっている。

     判断は早い方がいいかもしれない。「黒字リストラ」から「赤字リストラ」へのシフトが進み、退職金の割増額は減少傾向にあるからだ。パソナによると、1人当たりの退職金割増額の平均推計額は18年は約970万円、19年は約850万円だったが、20年は約400万円に下がっているという。

     ただ、20代と比べると、中高年の転職市場は流動性が依然として低いのも事実だ。総務省の労働力調査によると、20年4~6月の転職者比率(就業者数に占める転職者の割合)は、25~34歳では7・2%なのに対し、35~44歳では4・5%。45歳~54歳と55歳~64歳では3・7%まで下がる。

    「45歳以上だとなかなか決まらないことも多い。相談者には『年収が100万~200万円落ちるのは覚悟してください』とはっきり言う」と語るのは、人材紹介ベンチャーのキャリクリ(東京都中央区)の魚津君明代表。

    「求人側が給与を抑える中、年齢が高いほど年収のミスマッチも起こりやすくなっている」と指摘する。

    60代で収入アップも

     他方で、「60代でも年収アップして転職した事例もある」と明かすのは、リクルートキャリアの藤井薫・HR統括編集長。1級建築士で、需要が高まる医療施設や半導体向けのクリーンルームを設計できる60代の人は年収アップの転職を果たしたという。

     コロナ禍で求人を控える企業とデジタル化に向けて求人を積極化する企業に二極化する中、「年齢や前職の業種・職種というよりも、その人の能力が企業が描く『勝ち筋』の戦略にフィットするか」が採用を左右すると言う。

     企業の戦略をよく見極めることが、コロナリストラ下の転職戦線をうまく切り抜ける秘訣(ひけつ)と言えそうだ。

    (岡田英・編集部)

    (加藤結花・編集部)

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