経済・企業コロナに勝つ転職

転職戦線ケーススタディー=岡田英/加藤結花

    コロナ禍で「会社がなくなっても生き残るには」と考えた
    コロナ禍で「会社がなくなっても生き残るには」と考えた

     コロナ下の厳しい転職戦線をどう切り抜けたのか。それぞれの選択を追った。

    (岡田英/加藤結花・編集部)

    成長産業へ

    ケース(1) 地銀コンサル→IT 銀行向け研修が“蒸発” 異業界への転身で再起

     金融機関向けのコンサルティング会社の仙台支店長だった川口達也さん(35)が転職を意識し始めたのは今年4月ごろだった。地銀や信用金庫の職員への研修事業や人材派遣を手掛けていたが、コロナ禍で研修事業はキャンセルが続出し売り上げがほぼゼロに。業績が悪化する中、東京の本社では辞めていく人が相次いで出始めた。

     大学卒業後に地元の仙台銀行で法人営業などに約10年携わった後、幹部候補生として2018年に転職した会社だった。地銀での勤務経験が生き、わずか1年半で歴代最年少の支店長に抜てきされた。しかし、コロナ禍をへた今後10年を考えると、自分が身を置く業界自体に明るい未来を見いだせなかった。

     このまま妻と1歳の娘を養っていけるか。リストラにあったり、会社がつぶれたりしても生き残るには「時代の変化についていける人材にならないといけない」と考え、将来性の見込める業界・企業への転職を考えた。(コロナに勝つ転職)

     ◆「未来の大企業」

    「手を打つのが遅くなると、取り返しがつかなくなる」

     まずは転職サイトに登録してみた。6月初旬、登録されたプロフィールを見たIT系のスタートアップから連絡があった。営業電話を人工知能(AI)で採点するサービスを手掛けるレブコム(東京都渋谷区)。それまで知らなかった会社だったが、自宅でオンライン面接を気軽な気持ちで受けてみた。話を聞くと、営業を効率化して日本の労働生産性を向上させるというビジョンに共感した。地銀時代、営業で電子メールさえ使えずファクスでやりとりしていたことが思い出された。

     レブコムの方も、営業電話の自動採点サービスの利用者がリモートワークの普及で急増。今年5月に8億円の資金調達に成功し、採用を拡大させていた。

    「今の大企業より『未来の大企業』で働きたいと思った。会社の成長にコミットすることが自分にとっても財産になるはず」と川口さん。計3回のオンライン面接をへて10月に入社し、大企業への営業を担当している。レブコムはリモートワークが原則で、勤務時間もコアタイムを定めない「フルフレックス」だが、自らの判断で仙台から首都圏に移住した。年収は前職と同水準だが、会社の成長とともに伸びしろは大きいと考えている。

     レブコムの人事責任者、乾将豪さんは「コロナ禍でキャリアを見つめ直す人が増え、これまで転職市場に出なかった優秀な人材を採れるようになった」と話す。重視するのは「事業変化に対応できる人。リスクを取ってでも挑戦したいという人を積極的に採用している」と言う。

    ケース(2) 旅行→IT 観光打撃で勤務先が休業 自力で探した次の行き先

    新しい技術の習得を重視
    新しい技術の習得を重視

     コロナ禍で観光産業が大打撃を受ける中、滝谷智さん(仮名、40)が勤務していた旅行関連ベンチャーは休業に追い込まれた。

     2カ月以上たっても再開の見込みが立たない。休業手当は支給されたものの、収入が大幅に落ち込み「このまま休業が続くと、家賃が払えなくなる状況だった」と言う。

    「コロナ前のような世界にはもう戻らないだろう」と考え、7月ごろから転職活動を始めた。ウェブサイトの開発エンジニアだった滝谷さんは、自らのスキルを生かせそうな会社をインターネットで探し、関心を持った会社には自分で問い合わせた。候補をいくつかに絞り、人材募集をしていたAIが自動的に会話するチャットボットを手掛けるカラクリ(東京都中央区)に転職を決めた。

     同社はコールセンター向けチャットボットをクラウド経由でソフトウエア提供する「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」のビジネスモデルを採用しており、滝谷さんにとって「これまでにない経験ができ、新しいスキルを身につけられる」ことが決め手となった。

     9月に入社したばかりだが「転職して良かった。家賃の心配をせず、仕事に集中できる」と胸をなで下ろす滝谷さん。「これから自分が何をやるかで5年、10年先の自分の価値が変わる。新たな技術を身につけ、価値を高めていきたい」と話した。

    副業が足がかり

    ケース(3) 大手電機→派遣会社 「まだ自分は売れる」 定年後を見据えた転身

     水田雅史さん(仮名、58)は今年6月、大手電機機器メーカーから技術者派遣会社に転職した。しかし、昨年10月に副業を始めるまでは「まったく転職する気はなかった」と振り返る。

     前職では主に、家電などの電子機器を制御するソフトウエアの開発に携わった。60歳の定年後も再雇用で働き続けるつもりだった。

     昨年6月、会社で55歳前後の社員を対象に外部の講師を招いて副業を勧めるセミナーがあり、参加した。給与がしばらく上がっておらず「ならば自分で稼ごう」と副業仲介サイトにその日のうちに登録。昨年10月から長野県の精密部品加工会社で「リモート副業」を始めた。

     その会社では、コンピューターによる数値制御で金属を自動加工する「NC旋盤」を使っていたが、対象部品の種類や顧客先の企業などに応じて約1万通りものプログラムがあり、必要なものを探すのに苦労していた。そこで水田さんが、プログラムをすぐに検索できるソフトウエアを開発。約1カ月で試作品を作り、オンラインの会議でやりとりしながら仕上げた。

     ◆時給3700円

     始めて1カ月で「自分のスキルはまだ売れる」と気付いた。時給換算すると時給3700円ほど。本業よりは低いが、定年後の再雇用では今の半分以下になるのを考えると、悪くない。ひょっとしたら、転職した方が生涯賃金は上がるかもしれない──。市場価値に気付き、転職を意識した。

     本業の会社は、55歳以上の早期退職は退職金が割り増しになる制度もある。それも加味して「再雇用」と「転職」を比べ、65歳までの所得が多い方を選ぶことにした。

     昨年末までに転職エージェント3社に登録したが、50代後半で転職先を探す厳しさに直面した。まず、メーカーなどの事業会社は60歳定年が多く、受け入れ先が極めて少ない。さらに水田さんにとって重要な「60歳以降にいくらもらえるか」を募集要項に書く企業は「皆無」だった。面接を受けないと分からないのだ。

     そんな中、メーカーなどに技術者を送る派遣会社からは、登録直後から矢継ぎ早に声がかかった。その時には早く転職したい気持ちが膨らんでいた。「会社に本当に必要とされているのか、あいまいでもやもやしていた。それより、自分のスキルを認めてくれる会社に行きたかった」と振り返る。

     手を動かさない管理職より、現場で自分のスキルを生かす方がよかった。結局、60歳の定年後も同じ給与で働ける今の技術者派遣会社に入社。8月から通信会社に派遣され、ソフトウエアの開発の仕事をしている。スキルが勝負なだけにきついこともある。転職してよかったかは「まだ分からない」と水田さん。それでも「選択が正しかったかは、踏み出して初めて分かる」と語る。

    ケース(4) 外資系航空→自営業 46歳でリストラも 退職翌日には起業

    採用側からアドバイスできる強みを生かす 高田さん提供
    採用側からアドバイスできる強みを生かす 高田さん提供

     コロナで大きな打撃を受けた航空業界。ニュージーランド航空は4月、当時の全社員約1万2000人の約3割に相当する3700人の人員削減の計画を明らかにした。その1人となったのが、高田あつこさん(46)だ。

     2007年に語学力などが評価され同社に入社。以来、客室乗務員(CA)として勤務し、当時は50人のCAを部下に持つ管理職の立場だった。

    「こういう日が来ることは3月ごろから予想していた」と語る高田さん。社の置かれた状況は、経営層によるライブ配信やメールなどで頻繁に社員に発信されており、人員削減の計画も想定内のこととして冷静に受け止めた。

     ◆CAの面接官経験

     高田さんは部下に解雇通知を行うため6月中旬まで勤務した後、退職翌日からCAを目指す日本人向けのオンライン講座のビジネスをスタートさせた。主に、外資系航空会社のCAを目指す学生や社会人向けに、面接突破に向けたオンラインでの勉強会や個別コンサルなどを行っている。

     すぐに新しいビジネスを始められた背景には、副業をしようと以前から準備を進めていたことがある。コロナ前から副業に興味があり、ビジネス構築のためのオンライン講座を受け、知識や経験を人に伝えるビジネススキームについて学んでいたのが大きかった。

     コロナ前は異業種の副業を考えていたが、これをベースに、マネジャーとして年間100人以上のCAの採用・面接に携わってきた経験を生かしたビジネスができるのではという考えに至った。解雇通知を受けたときも「副業でしようとしていたことを本業に生かせばいい」とすぐに気持ちを切り替えられた。

     現在までに7人が講座を受講。「航空業界は今は厳しいが、いずれ回復すれば、面接対策の需要も生まれる。いい時期にビジネスをスタートできたと思っています」と笑顔。コロナに関係なく始めた副業への備えが、リストラの危機を助けた。

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