経済・企業コロナに勝つ転職

変革 求む!人事・総務部長 DXやリストラで必要に=向山勇

 ミドル・シニア(中高年)層の転職はコロナ前まで、かつてなく増えていた。総務省の労働力調査によると、中でも55~64歳の転職者数は2019年は51万人で、02年の31万人から約6割も増加。就業者数に占める割合(転職者比率)も4・4%と、比較可能な02年以降、最高となっていた。(コロナに勝つ転職)

 ところが、コロナ禍で求人数が落ち込み、中高年層も含めて転職市場は全体として厳しさを増している。ただ、そんな中でも、一部の幹部人材を求めるニーズは高まっており、二極化が進んでいる。

「変革を進めてくれる幹部人材が早く欲しい、というオファーが増えている」。経営幹部や部長・課長といった幹部層の人材紹介を手掛ける経営者JP(東京・渋谷区)の井上和幸社長はこう明かす。新型コロナウイルスの感染拡大で、デジタル技術によって業務プロセス全体を抜本的に変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を迫られる企業が増えたことが背景にある。コロナで大きな打撃を受けた一部業界を除けば、こうした変革を主導する幹部人材の採用は活発で「争奪戦になることもある」と言う。

 どんな求人が多いのか。「特にニーズが高まった分野は三つある」と井上社長は指摘する(図1)。

CFOも根強い人気

 一つ目は、人事・総務部門の部長や、最高人事責任者(CHO)といった管理部門の幹部人材。リモートワークの浸透で働き方が変化し、社員の管理や評価制度の再構築などが必要になったためだ。また、リーマン・ショック後と同様、リストラを含めた人材の見直しが必要になっているのも大きい。最高財務責任者(CFO)や財務・経理部門の部長クラスを求める動きも、新規株式公開(IPO)を目指すベンチャーを中心に活発化している。こうした管理部門の求人は「コロナ以前から2~3割増えている」(井上社長)。

 二つ目は、DXを推進するリーダー人材。コロナ禍でそのニーズが一気に表面化した。例えば、流通業界では外出自粛でリアル店舗が苦戦する一方、ネット通販の利用者が急増。現在、コロナ後を見据えてリアルとデジタルを融合させる仕組みづくりが急がれている。その業務を担うエンジニアや、リアル店舗とネット通販をどう組み合わせるのがよいかなど、デジタルマーケティングに精通した人材のニーズも高いという。

 三つ目は、新規事業や事業拡大の責任者。最高執行責任者(COO)や、経営企画や新規事業部門の幹部人材だ。例えば、コロナ禍で存亡の危機に陥った飲食業界では、ケータリングなど、非接触型の新規事業を立ち上げる動きが増えており、事業責任者が求められている。

 このようにアフターコロナの時代を見据えた事業戦略に合致する人材のニーズは、急激に高まっている。ただ、採用のハードルはコロナ前よりも上がっており、「サイト登録者100人のうち、こうした重要ポストで転職が決まるのは1人くらい」(井上社長)という状況だ。

 理由は、即戦力が求められているからだ。人事部長を求めている企業なら、単に経験がある程度ではだめで、「何人(リストラで)切ってきたか」など、よりシビアな実績が求められる。

 企業側のニーズは高いが、こうした即戦力幹部はそう多くはない。30~40代向けの転職支援サービスを運営するルーセントドアーズ(東京・港区)の黒田真行社長も「企業側も採用に苦心している」と言う。

やはり強いツテ

 では、これから転職先を探すなら、どんな方法が有利か。黒田社長が勧めるのは「転職した元上司や元同僚のツテをたどってみること」だ。最近は、転職エージェントの利用も多くなっているが、数では縁故転職の方が多いという。

 厚生労働省の直近の転職者実態調査(15年)では、転職者の活動方法で最も多いのはハローワークの41%だが、2位は縁故(知人・友人等)の28%(図2)。ツテがなければ転職エージェントなどを利用することになるが、1社に頼らず、セカンドオピニオン的に「3、4社に相談するのがいい」(黒田社長)という。転職エージェントにも得意分野があるからだ。

 アフターコロナの時代に合った変革を進められる幹部人材や専門性を持つ人材には、転職のチャンスは広がっていると言えそうだ。

(向山勇・ライター)


「こんなはずでは」防ぐには 元上司に評判聞くサービスも

 ここ数年、ミドル・シニア層の転職がしやすくなった分、「こんなはずじゃなかった」と転職してもすぐに辞めて別の企業を探す「仕切り直し転職」が増えている。

 経営者JPによると、転職ポータルサイト経由で同社に登録した約300人のうち、3分の1程度が2019~20年に転職したばかりだったという。転職後1年もたたないうちに、次の転職先を探しているわけだ。

 こうした短期離職は、応募者と企業のミスマッチなどで起きるが、その回避を狙った新しいサービスも生まれている。人材サービスのエン・ジャパンは10月、企業の人事担当部門向けに応募者の信用調査を支援する新サービス「ASHIATO(アシアト)」の提供を始めた。

 そもそも履歴書や面接だけで、応募者のスキルやコミュニケーション能力を判断するのは簡単ではない。さらにコロナ禍ではオンライン面接が増え、採用可否の判断はいっそう難しくなっている。

アンケートを送付

 新サービスは、元上司や同僚など応募者と一緒に働いたことのある人にアンケート調査を実施。回答が選考中の企業の人事担当に届く仕組みだ。これは「リファレンスチェック」と呼ばれるもので、外資系企業では以前から利用されている。これにより、「スキルはあるがカルチャーにマッチしなかった」「聞いたより実務レベルが低かった」といった書類選考や面接では判断が難しい部分の事前チェックが可能になる。

 また、同サービスでは、リファレンスチェックの結果から、面接時に活用できる「面接官アドバイス」も提供する。10月の運用開始時点でパナソニックやITサービスのワークスアイディなどが導入している。

 ミスマッチが減れば、定着率の上昇が期待でき、採用企業、転職者双方にとってメリットとなるかもしれない。

(向山勇)

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