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格安だけどサービス品質は劣る?話題の楽天モバイルは何がちがうのか

楽天の三木谷浩史会長兼社長(左)と楽天モバイルの山田善久社長
楽天の三木谷浩史会長兼社長(左)と楽天モバイルの山田善久社長

日本で「第4の携帯キャリア」としてスタートした楽天の子会社「楽天モバイル」。

月額2980円(税別)でデータ通信使い放題のプランは、6月末に累計契約申込数100万回線を突破した。

消費者にとってはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3キャリア以外の選択肢ができることで、携帯料金が下がるのかどうかが注目されている。

しかし、楽天モバイルが総務省に提出した事業計画では、2028年度末時点の加入者目標は1000万件で、大手3社とは大きな開きがある。

そのビジネスモデルも、大手3社とは大きく異なっているとみられる。

低価格を実現する3要因

楽天モバイルがアンテナや基地局、自前回線網を持つキャリアでありながら、大手3社を大幅に下回る格安なプランを提供できる要因は三つある。

一つ目は基地局の整備コストが安いことだ。

個人向けパソコンと同様に、基地局向け機器も半導体技術の進化などで、性能当たりの値段は年々安くなる。

大手3社も機器更新は順次行うものの、最新技術で携帯サービスを立ち上げる楽天モバイルが有利だ。

二つ目は、大都市中心に展開すること。

大手3社は、基地局の稼働率が高く採算の良い大都市圏で上げた利益で、稼働率が低く採算の悪い地方をカバーしている。

かつて、カバーエリアが狭く通信品質に課題のあったボーダフォンを買収したソフトバンクは、ユーザー評価を得るため、4〜5年間をかけて全国に約6万基の基地局網を整備した。 

一方、楽天モバイルは25年度までに2・7万基の基地局を建設する計画を立てている。

ソフトバンクに比べ、計画する基地局数は少なく、採算の良い大都市を中心に展開する計画だ。

三つ目が、販売経費が低いこと。

楽天モバイルの料金プランは一つしかないため、説明時間を短縮できる。

また、販売店依存度が低く、大手3社に比べ契約におけるオンライン比率が高いため、相対的に販売経費の抑制が可能だ。

ただし、楽天モバイルには、当面はカバーエリアやサポート品質で大手3社に劣るという弱点もある。

大手3社並みの全国ネットワークを構築するには時間を要する。

楽天モバイル自身、立ち上げ当初から大手3キャリアに追随するのではなく、大手3キャリアと「格安スマホ」と呼ばれるMVNO(仮想移動体通信事業者)の中間的役割を狙っているとみられる。

28年度末に1000万件という楽天モバイルの加入者目標計画は、現在の国内携帯市場に対する比率の約5%にとどまる。

これを他社から奪うとしても、28年までの影響額は1年当たり0・5%。大手3キャリア1社当たりの影響額はさらに小さくなる。

大手3社にとっては動画サービスの普及などによるユーザーの使用量の増加効果を考えれば、ユーザーが楽天に流れることによる損失も吸収可能な水準だ。

楽天と大手3社が全面衝突する可能性は低く、すみ分けは可能だろう。

顧客の自社内還流

親会社の楽天は現在、EC(電子商取引)事業と金融事業が収益の2本柱である。

両事業がポイントプログラムで連携した楽天エコシステムを軸にユーザー基盤の拡大を実現している。

中でも、ECサービスとの親和性がある楽天カードは、業界平均の2倍以上の成長を継続している。

楽天は、カード決済や楽天ポイントで投資信託を買えるなどの取り組みもいち早く実施しており、今後は楽天カードの会員基盤や決済・与信能力を活用し、金融サービスのさらなる拡充を図る意向だ。

楽天はECと金融で相乗効果を図るエコシステムを形成している。

一方、新規参入した携帯電話サービスは、契約者からの月次収入が期待されるストックビジネス(蓄積型の売り上げ、収入構造を持つ)であり、設備投資が一巡すれば安定的なキャッシュフローが期待できる。

新たに携帯電話加入者を取り込むことによるエコシステムの更なる拡大と、継続して獲得できるストック収益拡充の狙いがあるとみられる。

例えば、カード各社は、加入時特典やポイントプログラムなどで、会員基盤拡充を図っている。

しかし、消費者が財布に入れてメインで使うカードは1〜2枚に過ぎず、このポジションを得るために激しい競争を繰り広げている。

楽天モバイルの料金支払いを誘導できれば、楽天カードの支払額は、月額2980円(税別)の1年分で少なくとも年間で約3・6万円となり、メインカードのポジションを獲得しやすくなる。

さらに、そこでためたポイントを楽天市場で使ってもらうことで、EC事業への集客も実現する。

日本におけるEC市場や与信市場は成長市場である。

物販系分野の商取引市場規模に対する電子商取引市場規模の割合を示すEC化率やキャッシュレス決済比率は、先進諸国の中でも低位にとどまっており、今後の成長ポテンシャルも大きい分野だ。

実は大手3社も、今後は付加価値サービス強化による非通信分野の成長が肝になる。

当初は携帯電話の契約数の増加にあたる「量的成長」、そしてその次に一般ユーザーの1人当たりの通信量を増やす「データの成長」をけん引役として成長を実現してきた。

しかし、家計支出に占める通信料金の比重が上昇しつつある。

楽天モバイルの現時点の戦略は、大手3社に真っ向勝負を挑むのではなく、携帯事業で堅実な差別化戦略を行い、フィンテックやECなどのサービス分野の成長を促す戦略といえるだろう。

(森行真司・SBI証券企業調査部シニアアナリスト)

(本誌初出 追撃の楽天 格安プランで独自路線 狙いはフィンテックとEC=森行真司 20201201)

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