テクノロジースマホ・5Gの新王者

笑うのはソフトバンクと楽天?5Gが携帯キャリアの下克上をもたらす根本的な構造

    高速通信を体感できるアプリとしてソフトバンクが提供するVR(仮想現実)システム
    高速通信を体感できるアプリとしてソフトバンクが提供するVR(仮想現実)システム

    第5世代移動通信規格(5G)の商戦が今後、本格化する見通しだ。

    米アップルが10月下旬に5Gに対応した新型スマートフォン「iPhone12」を発売したことが起爆剤になる。

    スマホを動かすOS(基本ソフト)の日本でのシェアをみるとiOS(iPhone搭載のOS)が64%を占める(調査サイト「StatCounter」より)。

    これも5G普及の弾みになる。

    国内の5G商用サービスは3月下旬に始まったが、5G電波を受信できる場所は、大都市中心部のごく限られた地域にとどまり、事業者と5G契約を結ぶ利用者も極めて限定的。

    総務省によると今年6月末時点の5G契約は33万件で、携帯電話の国内契約件数(1億8961万件)に対して0・17%にすぎない。

    ただ日本で圧倒的シェアを持つiPhoneの最新機種が5Gに対応したことで、国内の5Gビジネスは今後徐々に立ち上がるだろう。

    「値下げ要請」真の狙い

    政府の携帯電話事業者に対する値下げ要請には、5G普及を事業者に促す「アメとムチ」の使い分けという狙いがあるとみている。

    世界の主要国のARPU(1契約当たりの月間通信料収入)との比較で、日本は高止まりが続き、近年では米国を抜いて世界一の高水準(図)になっている。

    菅義偉政権が主導する携帯料金の値下げには、これを是正するとともに、現行の4Gサービスで急速にコモディティー(低料金)化が進み、事業者は5Gの加入者拡大にまい進せざるを得ない状況を演出する狙いがあるのではないだろうか。

    通信企業が努力して5Gの契約を増やすことができれば、その分、価格上乗せが可能だ。

    現状で、4Gに比べて月間500円から1000円程度、高く設定されている5Gの契約を増やすことで、4G値下げによるマイナス影響をどれだけ吸収することができるかが、通信事業者の経営を左右するだろう。

    新世代の技術である5Gの加入者獲得競争では三つのポイントがある。

    (1)通信サービス価格、

    (2)端末価格、

    (3)通信網の品質

    ──だ。

    サービス価格は、ネットワークの構築途上にあるため、どの通信各社も値下げはしたくない。

    端末価格も、昨年10月から端末値引き額は2万円を上限とする政府ガイドラインが導入され、競争は難しい。

    従って、勝負どころは通信網の品質しかない。

    通信網の品質は人口カバー率と通信スピードで決まる。

    通信各社は、通信網の整備を通じて通信品質の良さを消費者に訴求することが重要になる。

    3大キャリアのうち、5Gの通信網の部分でどこが優勢か。

    ソフトバンク、NTTドコモ、KDDI(au)の順だと筆者は見ている。

    鍵を握るのが各社の加入者数と、基地局当たりのセル(電波の届く範囲)数と利用者数を大きく増やす「高密度化」に対応した基地局設置数の関係だ(表)。

    加入者が少ないと電波に余裕があり既存の4G基地局を有効活用しやすく、基地局の数が多ければ通信品質は当然向上する。

    ソフトバンクが優位とみるのは、DSS(動的周波数共有)と呼ばれる無線通信の技術を大々的に使うからだ。

    DSSとは簡単にいうと4Gの周波数を5Gに転換して使う技術で、4Gに比べて電波が飛ぶ距離は短くなるが、データを送受信するスピードが上がり、バンドワイズ(周波数の帯域幅)が広がるため、より多くの利用者を収容することができるようになる。

    ソフトバンクは、DSSをフル活用することによって2022年3月末までに90%の人口カバー率を達成するとしている。

    ソフトバンクの携帯加入者数は3大キャリアの中では最少である分、4Gの周波数に余裕があることからDSSの活用が可能になる。

    ただ、その引き換えとして通信速度は遅くなる。

    5Gの場合、最も良い条件だと10ギガbps(毎秒10ギガビット)程度の高速通信が可能になるとされるが、DSSを利用した通信網だと、最大でも2ギガbps止まりだろう。

    ただ、本来のスペックとは隔たりがあるとはいえ、4Gでは200メガbpsでも十分に高速だと感じている利用者に対して10倍の速度を提供できるメリットは大きいと考えられる。

    一方、ドコモはDSSを使わずに5Gのネットワークを構築する計画だ。

    加入者数が最大で周波数帯に余裕がないため、DSSを使うことができない。

    その代わり、正攻法で「ピュア(純粋)な5G」を構築する計画だ。

    通信スピードは、ソフトバンクの倍になる4ギガbpsは出るだろうが、人口カバー率はそれほど急速には広がらないというデメリットがある。

    KDDIは、ソフトバンクと同様にDSSを使うと説明しており、21年3月末までに人口カバー率90%を標榜(ひょうぼう)しているが、ソフトバンクに比べ周波数帯域に余裕がないし、高密度化した基地局数もソフトバンクに比べて5万局も少ないのが厳しいところだ。

    楽天が一気に浮上か

    今年4月に第4のキャリアとして本格参入した楽天は、基地局数は現在1万局程度と極めて限定的であるため人口カバー率引き上げのハードルは高い。

    しかし、5Gでは月額2980円で、最初の12カ月間無料という積極果敢な価格戦略によって、加入者獲得で一定の成果を得る可能性がある。

    安価にネットワーク構築が可能な完全仮想化技術を活用しているため、5G基地局はコスト競争力があり、全国展開に必要な設備投資費用や時間で他社との差を早く縮められるかもしれない。

    5G商戦を勝ち抜くには、設備面の品質や早期構築、コスト競争力の観点のほかに、コンテンツ配信やフィンテック(金融のIT化)などサービスのエコシステム(経済的な生態系)を築くことが重要だ。

    ここで優位性があるのはソフトバンクと楽天だろう。

    ソフトバンクは傘下に国内最大のポータルサイト、ヤフーを運営するZホールディングスがあり、楽天はeコマース「楽天市場」や「楽天トラベル」などで7000万人超の顧客基盤を持つ。

    携帯電話の初期投資の負担を耐え抜いて、一定規模の加入者を取り込むことができれば、既存ビジネスとの相乗効果を発揮し、5G商戦でも一気に浮上する可能性がある。

    (鶴尾充伸・シティグループ証券株式調査部ディレクター)

    (本誌初出 5Gで一番はどこだ? 通信網でソフトバンク先行 基地局遅れのKDDIは劣勢=鶴尾充伸 20201201)

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