リスクがついに顕在化する?やっぱり危なかった中国の債務問題
「融資平台」と呼ばれる地方政府傘下の投資・事業会社が発行する債券「城投債」(都市投資債)の発行額が増えている。
2020年は過去最高額となる勢いだ。
今年1~9月の発行額は約3・3兆元(約52兆円)で、前年の1・3倍と報じられている。
うち、1・7兆元(約27兆円)は新規調達という。
地方政府は地方債を原則発行できなかった10年代前半、融資平台を通じて資金を調達し、公共事業などを進めた。
その結果、地方政府の隠れ債務問題が生じた。
14年に地方債の発行が認められて以降、融資平台の地方政府のための資金調達機能は原則なくなった。
ただし、その後も景気情勢などに応じて、融資平台に対する措置は緩められたり引き締められたりし、現在も融資平台は、公共事業の建設・運営などに関与する。
インフラ投資が拡大
城投債の発行増加の背景には第一に、新型コロナウイルス禍の中でのマクロ経済政策の影響がある。
景気対策でインフラ投資が拡大し、公共プロジェクトの一部を「〇〇都市建設投資集団」といった融資平台が、官民連携パートナーシップ(PPP)に参加するなどして請け負う場合が増えた。
また、金融緩和策により、金融市場の流動性も豊富で資金調達コストも低下した。
第二に、融資平台の借り換えである。
融資平台は、城投債のほかに銀行融資や信託会社の集合資金信託商品などを利用して資金を調達していたが、シャドーバンキング(影の銀行)抑制策を含む資産管理業の新規規定(18年実施)を受け、信託商品などを通じた資金調達が徐々に難しくなっている。
これも城投債による資金調達が増えた一因となっている。
一方、融資平台のリスクも顕在化している。
ここ数年、融資平台が借り手である信託商品などの返済不能が発生している。
加えて、最近では9月に、吉林省の鉄道投資開発会社の城投債が1日間ながら返済不能となり、10月末には遼寧省のエネルギー供給会社の城投債がやはり返済不能後に担保会社により救済されたと報道された。
城投債に対する市場の信頼は、地方政府と融資平台間の強い関係を理由に比較的高かったため、これらの事件の影響が注目される。
一部の地域は、リスク軽減策を取り始めた。
最近の例として、貴州省では、同省の融資平台が関係する信託商品の返済不能が多い中、白酒で有名な地元優良国有企業の茅台(マオタイ)集団が債券を発行して調達した資金で、省の融資平台の持ち分を購入する動きや、同集団の財務会社が城投債に投資するのではという臆測が報道されている。
ただし、この方法は融資平台リスクの他への付け替えであり、抜本的な解決ではなかろう。
今年、発行条件が良い中で発行が増えた城投債の一部も、主に借り換えの形で融資平台のリスク解決の先送りに利用されている面がある。
こうした中で、債券市場による選別も徐々に進んでいる。
城投債の発行地域は経済が発展した地域が多い。
また、城投債としては格付けのやや低い融資平台(AA級以下)が、城投債の発行を延期・中止するケースが出ている。
今後、経済・財政力の弱い地域などで返済不能リスクが顕在化する可能性には注意が必要であろう。
(神宮健・野村総合研究所金融イノベーション研究部上席研究員)
(本誌初出 地方でくすぶる債務リスク 「城投債」発行額が過去最高へ=神宮健 20201201)