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経済・企業 スマホ・5Gの新王者

5Gで変わる通信業界 米巨大IT依存が深まる 勝負は「非通信」ビジネス=石川温

「モバイル通信料は全体の営業利益の38%しかない」──。11月4日のソフトバンクの2020年度第2四半期決算会見で、宮内謙社長はソフトバンクがこれまで注力してきた非通信領域のビジネス強化を語った。(スマホ・5Gの新王者)

 18年12月に東証1部に上場したソフトバンクは、翌年6月には「ヤフー」ブランドを持つZホールディングス(HD)を子会社化。11月にはZHDが衣料通販大手のZOZO(ゾゾ)を子会社化した。さらに12月にはZHDが無料メッセージアプリ「LINE」を展開するLINEとの経営統合を発表するなど、インターネット事業を拡大し続けてきた。

 ソフトバンクの収入源は、ヤフーや法人事業、端末販売などが連結売上高の71%を占め、モバイル通信料の収入は29%にすぎない。2年前に比べて11ポイントも下がっているのだ。

 ソフトバンクが「全体の営業利益に占める通信料収入の割合が低い」とあえてアピールしてきたのは今回が初めてだ。おそらく、菅義偉首相が「国民の財産である電波を使って事業をしていて、利益率20%以上もあげているのは問題で、値下げの余地がある」として、事業者に圧力を強めていることをそらす狙いがあるのだろう。

ポイント付与で囲い込み

 11月5日開催のNTTドコモの新製品・新サービス発表会。第5世代移動通信規格(5G)対応スマートフォンや、5Gを生かしたサービスが発表される中、もう一つ、見逃せない発表があった。同社のスマホ決済サービス「d払い」において「スーパー販促プログラム」が開始になるニュースだ。

 このプログラムは、店舗側がd払いを使っている、もしくは「dポイントカード」(クレジット機能のないポイントカード)を提示したことのある利用者に対して、クーポンや画像、テキストを送信できる機能だ。店舗側は顧客の利用状況や年齢、性別、地域などの属性を選定して送信できるため、顧客の再来店を促したりできるようになる。

 この1年でスマホの画面にQRコードを表示させて支払いができるスマホ決済サービスが飛躍的に普及した。ソフトバンク系のPayPay(ペイペイ)は、20年10月現在で3300万ユーザーを突破。決済回数は四半期(20年7~9月)で4・9億回に上り、1年間で5倍も増えた。

 d払いやPayPayだけでなく、KDDI「au Pay(エーユーペイ)」や楽天「楽天Pay(ペイ)」など、スマホ決済では通信事業者が手がけるサービスの存在感が増している。

 この分野で通信事業者が圧倒的に強いのは、各社が利用者を識別するためにID(符号)を持たせ、毎月の通信料金の支払いに対してポイントを付与する仕組みを確立してきたからだ。これまでポイントは主に機種変更にしか使われなかったが、今ではスマホ決済サービスの残高にチャージできるため、コンビニなどでの支払いに利用できるようになっている。

 ポイントが毎月付与され、そのポイントがスマホ決済サービスの残高として消費されていく。結果として、ユーザーのキャリアに対する顧客満足度が上がり、「通信料金は高いかな」と思いつつも、契約し続けるという状況が定着しているのだ。

 ある携帯キャリア幹部は「スマホ決済の手数料でもうける気などさらさらない。顧客接点を強固にし、解約を抑止するのが一つの目的だ」と本音を漏らしていた。

 スマホ決済サービスは、マーケティングのツールとしての活用が「本丸」と言われている。スマホ決済サービスを普及させ、ユーザーに使ってもらうことで、店舗とユーザーを結びつけることができる。あとは店舗側からユーザーに対してクーポンなどを配布できるプラットフォームを提供することで、収益化を図るというわけだ。

コンビニとも連携

 KDDIは19年12月にローソンと資本提携を行い、今年9月から店舗状況とユーザーのニーズに合わせた特典を配信する実証実験を始めている。

 例えば、20~40歳代の働く女性に対して、帰宅時間帯に近所のローソンで、賞味期限が切れそうなデザートを購入すれば、いつもよりも多めの「Ponta(ポンタ)ポイント」を付与することが可能になる。ユーザーの位置情報、性別、年齢、属性を知り、IDと決済サービス、さらにはポイントサービスを持つキャリアだからできる取り組みと言える。

 スマホ決済サービスには、クレジットカード事業者や銀行、ゆうちょ銀行なども参入しているが、これら金融機関は、「決済手数料」でしかもうけることができない。ただ、いずれも決済手数料は3%程度しかなく、利益は薄い。

 そうなると、生き残るために必須となる、スマホ決済サービスのマーケティングツールへの落とし込みができるのは、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、そして新規参入の楽天モバイルという通信陣営だけということになる。

 NTTドコモも伊藤忠商事と同社傘下のファミリーマート、サイバーエージェントと組んで購買データを活用した広告事業に関する新会社を20年9月に設立。スマホ決済とマーケティングとの相乗効果を狙う戦略を強化中だ。

「GAFA」とは協調

「市場環境の中でドコモが(営業利益で)3番手になり、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)のような海外の強い会社が出てきている。この危機感が一番だ」

 9月29日、NTTの澤田純社長は、NTTドコモの完全子会社化を決意した理由をこう説明した。

 確かに国内におけるクラウド市場は、アマゾンやグーグル、マイクロソフトなど米巨大IT企業に需要を侵食された状態だ。NTTとしてはドコモを取り込むことで、GAFAに対抗したいという強い思いがあるのだろう。

 しかし、携帯電話会社から見れば、GAFAは敵どころか重要なパートナーになっている。

 ソフトバンクがシェアを伸ばせたのはアップルの「iPhone」を携帯3社の中で最初に独占的に扱うことができたからだろう。今ではグーグルのスマホ「Pixelシリーズ」の拡販に熱心だ。

 一方、ドコモは、親会社NTTと同様にGAFAに対抗心を燃やしているかといえば、全くそんなことはない。ドコモは、アップルと「Apple at Work(アップル・アット・ワーク)」という法人での使い方をアピールするサイトを立ち上げるなど、法人向けの販売などを強化している。

 この取り組みは携帯大手3社の中では、ドコモが独占的な扱いとなる。iPhoneの取り扱いにおいて最後発であったドコモだが、法人向けには主力商品になっているのだ。

 初めて5Gに対応した「iPhone12」(10月発売)では、アップルが開発段階でドコモ、KDDI、ソフトバンクとタッグを組み、iPhone12で5Gを快適に使えるように試験を繰り返した。同機種ではユーザーがどんな料金プランを契約しているかを本体が確認でき、使い放題プランであれば、流れてくる動画を高画質化するという取り組みも行われている。

コンテンツ企業にも恩恵

ゲームは5Gの普及を後押しすると期待されている(東京ゲームショウ、2019年) (Bloomberg)
ゲームは5Gの普及を後押しすると期待されている(東京ゲームショウ、2019年) (Bloomberg)

 KDDIの5Gスマホ向けの料金プラン「データMAX5G オールスターパック」はデータ通信料金に加え、音楽配信の「アップルミュージック」と動画配信の「ユーチューブプレミアム」などの利用料がセットになっている。

 アップルやグーグルからすると、携帯電話会社と組み、auショップで、コンテンツ配信サービスをスマホとセットで契約してもらうことで、インターネット経由での販売では届かないユーザー層にサービスを届けることができる。クレジットカードではなく、通信料金と一緒に回収する「キャリア決済」となるため、クレジットカードを持っていない層の需要も取り込むことができる。

 米IT企業が提供する、利用料が毎月発生するサブスクリプション型のサービスは、ユーザーが定着しないことが弱点だが、通信料金との組み合わせになると解約率が一気に低減するという効果も見られている。

 例えば、KDDIと提携する米映像配信ネットフリックスは、KDDIのスマホ端末とセットで契約したユーザーは、解約する割合が非常に少なかった。このため、アップルとグーグル(動画配信サービス「ユーチューブ」を傘下に持つ)というライバル同士が、同じ仕組みを採用したほどだった。ネットでコンテンツを売る会社側は、リアルに店舗を持つ携帯電話会社はなんとしてでも手を組みたいパートナーなのだ。

クラウドで相乗効果

 クラウド分野においては、KDDIと「アマゾン・AWS」(アマゾンのクラウドサービス)との組み合わせが面白い。5Gでは「超低遅延」として、ネットワークの反応速度の速さのメリットを打ち出しているが、処理するサーバーが端末から遠ければ、その効果が発揮しにくくなる。そこで端末の近くで情報を処理する仕組みが導入されようとしているのだが、KDDIは基地局を収容する設備にアマゾン・AWSを採用するメニューを用意する。

 これにより、IT開発者は、使い慣れたAWSと同じツールや機能を使用しながら、KDDIの5Gで超低遅延を生かしたサービスを提供できるようになる。KDDIは法人向けにAWSを積極的に販売している。

 日本のキャリアは、通信に依存した経営から脱却し、非通信分野での売り上げを上げようと必死だ。GAFAと対抗するのは無駄な努力であり、いかにGAFAと共存の関係を維持・発展させるかが重要になっている。

(石川温・ジャーナリスト)

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