前田瑶介 WOTA代表 水道なしで500回使える手洗い機
街中で、いつでも、どこでも使える「公衆手洗い」の普及を目指し、ポータブル手洗い機「WOSH(ウォッシュ)」を開発。見据えるのは水の再利用が当たり前の水循環社会だ。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=加藤結花・編集部)
水道を必要としない独立型の手洗い機「WOSH」を開発しました。98%以上の水を再利用できるため、20リットルの水を一度補充すれば、連続で500回以上の手洗いができます。コロナ禍で公衆衛生の意識が高まる中、飲食店や病院など先行予約で3500を超える注文があり、反響の大きさを感じています。
今年に入り、ある大手飲食チェーンから店舗設計について相談を受け、強いニーズを感じたのが開発のきっかけです。飲食チェーンでは、感染対策として「手を洗いたい」と店舗のトイレを利用する人が急増し、手洗い目的でトイレが混むという困った状況が起きていました。そこで、店の前に置ける手洗い設備が作れないか、という話が出たのです。
感染対策としてアルコール消毒を使っている施設が多いですが、アルコールでは不活化できないウイルスも存在します。一方、水での手洗いはより広範囲で除去効果があると認められています。また、スーパーなど人が多く出入りする店舗にアルコールを常設していると費用もかさみ、1本当たり月5万円以上ともいわれます。WOSHは月額2万円(5年契約)から使え、コスト面でも優位性があります。先行予約分の納品は年内を予定していますが、すでに銀座三越、ルミネ有楽町など一部の商業施設で今秋から導入されています。
日本で初めて公衆トイレができたのは横浜港といわれています。野外での排せつ行為を認めたままでは感染症の蔓延(まんえん)を防ぐことができないとの海外識者の意見を受け、明治政府が作り、それが全国へと広まっていったそうです。公衆衛生の社会インフラとしてWOSHが広まっていくことに期待しています。
水の再利用を当たり前に
ドラム缶ほどの小さな機械の中に、水処理場の「浄水機能」と「運用管理技術」を全部詰め込むことに成功した高い技術力が自慢です。あまり知られていませんが、水処理の現場は、長年の経験を頼りに人が目で見て、鼻で匂いをかいで装置を調整する非常に属人的な世界です。その目や鼻などの五感をセンサーに置き換え、運用管理のアナログな判断をAI(人工知能)技術で数理モデル化しました。効率的なフィルターの交換時期などが自動で判断できるようになり、ランニングコストを最大で16分の1程度まで削減できます。
四国の田舎で自然に囲まれて育ったので、子どもの頃は身近な生物を対象に研究をして過ごしました。東京大学の合格発表のため上京した翌日、東日本大震災に被災。水道が使えなくなったことをきっかけに水インフラに関心を持つようになりました。大学・大学院で都市計画を学ぶうちに、水の問題は世界中で上下水道のシステムに縛られていることを知り、これまでの水道とは違う浄水システムの開発の必要性を感じました。もともと一番難しいことに挑戦したい性格なので、水インフラの課題解決は非常に難しいからこそ、懸けてみたいと思いました。
目標は、2020年代のうちに「水の循環利用」を当たり前の世界にすること。環境、健康、経済コストの観点で優れたシステムを作り、社会を移行させていきたいです。(挑戦者2020)
企業概要
事業内容:水処理装置の製造・開発など
本社所在地:東京都文京区
設立:2014年10月
資本金:非公開
従業員数:非公開
街中に設置されているWOSHWOTA提供
■人物略歴
まえだ・ようすけ
1992年徳島県出身。東京大学大学院修了。建築学を専攻。高校生の頃に凝集剤を研究して日本薬学会で発表したのが水との初めての接点。在学中に省エネのビル制御システムを開発し、売却。その後、大学の先輩が代表を務めていたWOTAを引き続き継いで代表に就任。