アメリカのパリ協定復帰をチャンスと見て三菱自動車の加藤CEOが日産・ルノーと電動化を加速するワケ
世界的に自動車の電動化が加速する中で、どう生き残るのか。三菱自動車の加藤隆雄CEO(最高経営責任者)に聞いた。
(聞き手=稲留正英/神崎修一/斎藤信世・編集部)
── 米国で民主党のバイデン政権が誕生する。経営への影響は。
■大統領就任初日にパリ協定に復帰すると言っているので、環境施策は間違いなく加速するだろう。その意味では、日産自動車、ルノーとのアライアンスで、環境対応の電動化技術が生かせるので一つのチャンスだ。
── 電動化への取り組みと戦略は。
■ここ3年間では環境対応車を主体に新車を出していく。これまでは欧州が完全に先行していたが、今後、世界的に電気自動車(EV)をはじめとする環境対応車が増えていくだろう。
当社は今年12月に日本でクロスオーバーSUV「エクリプスクロス」のプラグインハイブリッドカー(PHV)を発売するほか、アウトランダーの次期車もPHVを準備している。また中国では広州汽車集団と共同でEVを生産する。日本では、日産自動車と共同で軽自動車のEVを導入する。
── アライアンスは、三菱自の益子修前会長が逝去し、またカルロス・ゴーン元日産自動車会長が海外に逃亡したことで求心力を失った感じもある。
■これまではアライアンスありきという考えが少しあった。それぞれの会社が成長していくために、アライアンスのアセットをうまく活用しようというのが基本的な考え方だ。例えば、日産と水島製作所(倉敷市)で行っている軽自動車の共同生産プロジェクトは非常にうまくいっている。これこそアライアンスの一つの成功例だと思う。
欧州市場は事実上撤退
── 欧州は環境規制が厳しくなるがどう見ているか。
■欧州向けの新車開発はストップしたので、当社の市場も縮小していくだろう。ドイツの開発拠点も使わなくなる。欧州ではPHVが好評で、利益が出ていたこともあったが、これは地元政府からPHVの補助金が出ていたためだ。為替も非常に厳しく、今は利益幅も非常に小さい。今後も厳しさは増す。当社のリソースは欧州にはさけない。
── 三菱自としては今後どのような車作りを目指すのか。
■具体的な策についてはまだ思案中だ。しかし、パジェロやランサーエボリューションなど昔から培ってきた走りの技術がしっかりあるうえ、EVやPHVをパイオニアとして開発してきたので、技術やノウハウはもっている。この二つをベースにして、いかに三菱らしい楽しい車を作れるかということを考えていきたい。
── 2020年9月中間連結決算は、純損益が2099億円の赤字だった。資金繰りは大丈夫か。
■これについては全く問題ない。3000億円の融資枠は銀行にすぐに同意してもらい、そのうちほとんどの調達を終えた。3月末に比べると9月末のキャッシュは増え、月商の約2カ月分の運転資金は確保している。コロナ禍で不透明な状況は続くが、引き続き注視していく。
■人物略歴
かとう・たかお
1984年三菱自動車入社、名古屋製作所やロシア組立事業推進室などを経て、15年4月からインドネシア子会社MMKIの社長。19年6月より現職。58歳。
本誌初出見出し:2020年11月30日 インタビュー 加藤隆雄 三菱自動車CEO 日産、ルノーと電動化技術を生かしていく