コロナ禍のいま地銀再編を進めると大惨事を招くかもしれない深い理由
地銀再編の外堀が埋まってきた。
11月27日に同一県内の地銀の統合を独占禁止法の適用除外とする合併特例法が施行されたほか、金融庁は金融審議会の「銀行制度等ワーキング・グループ」で議論している銀行の規制緩和案を11月中にもまとめる見通しだ。
本誌が発売されている頃にはすでに明らかになっているだろうが、規制緩和案には、企業に対する出資上限の拡大や他業の容認などが含まれるとみられる。
さらに地域金融機関の再編に伴い発生する費用の一部を負担する「資金交付制度」も来年夏には創設される。
日本銀行も11月10日、経費削減や経営統合を行った地銀や信金の資金繰りを支援する「地域金融強化のための特別当座預金制度」の導入を決めた。
2020〜22年度の3年間の時限措置で、日銀の設定した条件を満たせば、その金融機関が日銀に預けている「超過準備」にプラス0・1%の上乗せ金利を払うという。
超過準備には現在マイナス0・1%の金利が付いており、金融機関にとって大きな損失となっている。
これをプラス金利にして地銀や信金の再編を促そうというのが狙いだ。
オーバーバンキングは、特に人口減少の進む地方を中心として長年指摘され続けてきた構造問題であり、こうした政府・日銀の取り組みは十分理解できる。
しかし、タイミングは大丈夫なのか。
待ち受ける借り換え需要
今は新型コロナウイルスで企業の債務が急増している異常時だ。
銀行と信金の貸出平均残高は、少なくとも20兆円はトレンドから上振れた状態で(図1)、しかもその要因のほとんどが満期まで1年未満の短期貸し出しであることが法人企業統計から推察できる(図2)。
つまり、今後企業のキャッシュフローが劇的に改善しない限り、来年にかけてかなり巨額の借り換え需要が発生することになるわけで、それに失敗すれば倒産や失業の大幅増につながりかねない。
そんな時期に痛みを伴う再編を地域金融機関に迫ることが果たして適切なのか、大いに疑問が残る。
日銀の措置も筋が良いとは言えない。
今回、日銀の導入した制度は金融システムの安定確保を意図したプルーデンス政策の一環であり、金融政策ではない。
従って金融政策決定会合ではなく、政策委員会の通常会合で決定された。
とはいえ、そもそもマイナス金利政策で金融機関を苦しめたのは当の日銀だ。
プラス金利にしてやるから再編しろと言われても金融機関としては釈然としないだろう。
その前に、16年初から5年続けても一向に物価目標を実現しないマイナス金利政策を検証する方が先ではないだろうか。
(愛宕伸康・エコノミスト)
(本誌初出 地銀再編のタイミングのまずさ=愛宕伸康 20201208)