コロナから立ち直った中国が「科学技術立国」を目指す理由
景況感を表す財新・製造業PMI(購買担当者景気指数)は、10月は53・6と好不況の境目の50を大きく上回った。
成長の原動力は、コロナ禍からの反発(自動車の繰り越し需要)と世界のハイテク製品需要を表す半導体サイクルの回復にある。
半導体サイクルは第5世代移動通信規格「5G」の実用化もあり、今年初から回復局面に入っていた。
コロナ禍で、テレワークが世界的に広がるとハイテク需要にはむしろ追い風が吹いた。
デジタルトランスフォーメーション(デジタル技術による生活や仕事の変革)は進み、この先もハイテク需要の増加は続こう。
図1の通り、中国の製造業PMIは、半導体サイクルを表す世界半導体関連株価と高い連動性がある。
半導体関連株価がコロナ禍前のトレンドに沿った上昇を続けるなら、当面、製造業PMIが50を下回ることはなさそうだ。
外需の波に乗ってさえいれば、中国経済は持続的な成長が期待できる。
だが中国はいま、外需と決別しようとしている。
10月下旬に開催された共産党の重要会議「5中全会」では、外需に依存しない自立経済(国内大循環)への転換が打ち出された。
政策の柱は、最低賃金の引き上げや社会保障の充実による個人消費の刺激、並びに莫大(ばくだい)な産業補助金による科学技術立国とハイテク製品の内製化だ。
対中強硬は米国民の総意
外需に依存しないとの考えは為替政策にも見られる。
図2の通り、人民元レートは基本的にはドルの動きで決まるが、昨年までは米国の制裁関税を相殺するような元安誘導が見られた。
現在は外需獲得より内需を利することが優先され、輸入コストの低下につながる元高進行が容認されている。
方針転換の背景には、米中対立の常態化への警戒がある。
米ピュー・リサーチセンターの調べでは、約7割の米国人が中国を「好ましくない」と考えている。
政治的な分断が拡大する米国で、対中強硬は唯一ともいえる国民の総意だ。
米大統領選の公約では、バイデン・トランプ両氏とも中国排除を念頭に、製造業の国内回帰策としてそれぞれ「バイ・アメリカン」「メード・イン・アメリカ」をうたった。
米国の経済ナショナリズムや脱グローバル化は、変わらないだろう。
米国はサプライチェーンからの中国排除を強化し、中国は内製化の道を進む。
いよいよ、中国景気と半導体サイクルはデカップリングの局面に入る。
習近平政権は、国家資本主義の成功モデルを示せるか、成長の遅れを露呈するかの正念場に立たされている。
(渡辺浩志、ソニーフィナンシャルホールディングス・シニアエコノミスト)
(本誌初出 米中対立と中国内製化の行方=渡辺浩志 20201201)