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それでも自信満々の習近平が「内需拡大で米国越え」を宣言するワケ

中国共産党の重要会議である第19期中央委員会第5回総会(5中全会)が10月26日から29日まで開かれ、来年から2025年までの新たな5カ年計画と35年までの長期目標に関する方針を決めた。

香港の英字紙『サウスチャイナ・モーニングポスト』(11月10日付)は米大統領選投票直前の会議について「ワシントンに対応して国内政策や外交政策を修正する考えはないというシグナル」と指摘した。

中国はトランプ大統領が再選を果たそうと、バイデン前副大統領が政権の座に就こうと対立を深めてきた米中関係の基調に大きな変化はないという認識なのだろう。

閉会後に発表されたコミュニケ(公報)に米国の文字はなかったが、計画は米中対立が長期的に続くことを前提にしたものだ。

キーワードの一つが「双循環」だ。

英BBC放送(10月26日)は事前の報道で「米中衝突に対応した戦略的調整」と表現した。

中国は米中貿易戦争で外需に依存しすぎるリスクを思い知らされた。

国際的な経済循環(外循環)だけでなく、国内の経済循環(内循環)を増やし、内需主導型の発展に切り替えようというのが「双循環」だ。

もう一つのキーワードが「創新」(イノベーション)だ。

香港紙『明報』(11月3日付)は「科学技術のイノベーションをこれまでにないほど最優先の課題と位置づけた」と評した。

米国は第5世代移動通信規格「5G」技術や人工知能(AI)などの先端技術で中国に主導権を奪われることを恐れ、華為技術(ファーウェイ)など中国企業への禁輸措置など圧力を強めてきた。

そこで明確になったのが半導体など基幹部品を米国に依存する中国の弱点だ。

コミュニケはイノベーションを経済建設の「中核」に位置づけた。

米国が目の敵にする「中国製造2025」の「バージョンアップ版」というBBCの指摘は当を得ている。

コミュニケによると、今年の中国の国内総生産(GDP)は初めて100兆元(約15兆ドル)の大台に乗った。

1人当たりでは1万ドルを超える。

習近平国家主席は会議の演説で「35年にはGDPか1人当たり平均収入の倍増が完全に可能だ」と述べ、米国超えに自信を示した。

『サウスチャイナ・モーニングポスト』(11月9日付)によれば、平均4・8%の成長が必要になるという。

同紙は困難な目標ではないとするが、課題は多い。

格差解消もその一つだ。

3億3000万人の富裕層の1人当たりGDPが2万5000ドルを超えるのに対し、農村を中心とした10億5000万人は4500ドル以下にとどまっているという。

習氏がナビゲーター

BBCは内需主導の安定的な発展にはバランスの取れた中間層の拡大が必要だと指摘し、社会保障や都市と農村に分かれた戸籍改革の必要性を指摘している。

会議は計画の提言と同時に米中対立と新型コロナウイルスの流行という内憂外患に対応するため、習近平国家主席の権威強化を進めた。

習氏は「全党の核心的なナビゲーター、舵手(だしゅ)」と位置づけられた。「舵手」の呼称は毛沢東以来だ。

『ニューヨーク・タイムズ』紙(10月30日付)は習氏が22年の第20回共産党党大会で3選を果たし、「10年あるいはもっと長期にわたって統治を続ける可能性がある」と予測している。

(坂東賢治・毎日新聞専門編集委員)

(本誌初出 中国、内需主導型へ 技術革新も最優先課題=坂東賢治 20201201)

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