国際・政治注目の特集

あまりに非常識!コロナ禍で「東京オリンピックを強行開催」なら「医療スタッフの大半がタダ働き」になる

五輪開催に向け肘タッチをする東京都の小池百合子知事(左)とIOCのバッハ会長
五輪開催に向け肘タッチをする東京都の小池百合子知事(左)とIOCのバッハ会長

国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が11月中旬、来夏の東京五輪開催に向け来日した。

国家元首並みの待遇(チャーター機で税関検査・PCR検査は免除)の是非はともかく、菅義偉首相や東京都の小池百合子知事、大会組織委員会の森喜朗会長と相次いで会談した。

この時期に来日した理由はただ一つ。

1年延期された東京五輪が、予定通り来年7月に開催されることを日本側と再確認し、世界に向かって宣言することだった。

世界的に新型コロナウイルス禍に見舞われ続け、多くの人々が東京五輪開催を疑問視しているこの時期に宣言する必要があったのは、東京五輪のゴールド&オフィシャルパートナー、オフィシャルサポーターなどのスポンサー企業との大会延期に伴う契約延長を促すため。

つまり、「金集め」のためだった。

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約70社あるこうしたスポンサー企業のうち、契約延長に合意している企業は約4割とも言われ、残る6割は未契約。

コロナ禍による業績不振に加え、「完全な開催」が不明では宣伝効果や費用対効果も不明で、多くの企業が契約をためらう状態だ。

そこで約3000億円とも言われる延期に伴う追加費用を捻出するためにも、スポンサーに新たな追加の契約料を支払ってもらう必要があり、バッハ会長の「開催のお墨付き」が必要となったのだ。

だが、2021年3月期の決算見通しで、日本航空(JAL)は最大2700億円の赤字、全日本空輸(ANA)が5100億円の赤字を見込むなど懐は厳しい。

キャビンアテンダントや地上勤務の職員の多くを家電販売会社や地方公共団体などに出向という形で一時「転職」させる両社が、追加費用を出せるか否か大いに疑問だ。

さらに五輪開催期間中に必要とされている医療従事者(医師と看護師など)は約5000人必要とされているが、それは熱中症対策として考えられた数字。

もしも、コロナが終息しない中での「ウィズコロナ」開催となり、来日の可能性は不明とはいえ、1万人以上の選手を収容する選手村や全33競技の会場に、PCR検査など熱中症対策以外にコロナ対策の医療従事者が必要となると、当初予定の5000人では到底足りないだろう。

おまけに報酬が出るのは各会場の責任者数十人のみで、医師や看護師を派遣する過半数の病院は出向扱いで給料を支払うものの、残りは無給ボランティアだという。

少しでもウィズコロナの状態が長引けば、五輪への医療従事者の派遣そのものが無理となるのは明らかだ。

来年にはワクチンも出回り、暖かくなればコロナも終息すると予想する医療関係者もいる。

だが、欧米中心のIOCや日本政府が、そんな「神頼み」をしてでも東京大会の「完全開催」を願うのは、翌年(22年)2月に中国・北京で開催予定の冬季五輪に「コロナに打ち勝った栄誉」を与えたくないからだろう。

(玉木正之・スポーツ文化評論家)

(本誌初出 IOC会長来日 五輪開催へ「金集め」の思惑 コロナ長引けば医師不足招く=玉木正之 20201208)

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