経済・企業挑戦者2020

田中遼 VAAK CEO カメラ越しに光るAIの目

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 店舗や施設の防犯カメラの映像をAIが自動解析して、犯罪や不正行為を自動検出する「VAAKEYE(バークアイ)」を開発。AI技術で安全な社会を支える。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=吉脇丈志・編集部)

 防犯カメラの映像をAIで解析して、万引きなどの犯罪や不正行為を検知すると、パソコンやスマホの管理画面に検知画像や緊急度が通知されます。歩幅や関節の動きなど100以上のポイントを分析することで、高精度で検知することができます。

 万引きは異常心理が行動に表れます。歩幅が短くなったり、早歩きになったり……。また、目線の動きなども含め、いくつも兆候があります。そうした兆候が過去に万引きをした人の行動とどのくらい似ているか、相関性も計算して検出していきます。

 開発時には10万時間分の行動データをAIに読み込ませたほか、万引きを見つける「万引きGメン」にも協力してもらいました。2018年にバークアイのサービスを開始後、そうした検知が一つのきっかけとなって万引き犯の検挙につながった事例もあります。

 万引き対策以外でも、マーケティング情報として買い物客の行動を分析することが可能です。防犯カメラには、買い物客がどの商品を何回手に取っているか、どれくらいの人が店内のどこで立ち止まっているか、欠品は発生していないかなど、さまざまな情報が映し出されているからです。(挑戦者2020)

体調不良の人なども

万引き行動の検知画面 VAAK提供
万引き行動の検知画面 VAAK提供

 その他にも、商業施設内で体調不良でうずくまっている人や、車椅子が動かせなくなって困っている人、立ち入り禁止の柵を乗り越えようとしている人などを検知することができ、小売業を中心に50社ほどが当社のシステムを導入しています。

 バークアイのサービスには、解析結果を後でまとめて報告するタイプと、その場で店の人に通知するタイプがあります。後で報告するタイプなら、防犯カメラ4台からの契約で1台当たり月1万8000円から。既設の防犯カメラをそのまま使え、映像データを当社に送って分析する仕組みです。

 子どものころからコンピューターはよく触っていました。インターンで働いたスタートアップ企業で、ITの知識をどうやってビジネスにするかを学び、AIを使った行動分析ならグローバルな事業にも発展させやすいと考えました。

 そうした中で着目したのが、小売店にとって切実な万引きの被害です。ITの技術で大義をなせる事業を立ち上げたいと思ったんです。行動分析を防犯に生かせれば、社会的な意義も大きい。資金は開発段階の18年、AIベンチャーに投資するソフトバンクグループの「ディープコア」から5000万円出資してもらいました。

 映像データの収集には、コンビニエンスストアや書店などに協力をお願いしましたが、映像が証拠となって万引き犯の検挙に結び付くまで1年かかり、その間は社員みんなで励まし合っていました。今後は欧州のセキュリティー大手と協業するなどし、海外にも進出していきたいと考えています。


企業概要

事業内容:映像解析AIの開発・運営

本社所在地:東京都千代田区

設立:2017年11月

資本金:2億円(資本準備金含む)

従業員数:約25人


 ■人物略歴

たなか・りょう

 1988年東京都出身。2008年横浜国立大学工学部中退。13年にシステム開発会社を起業。プログラミング教育会社の立ち上げを経て、17年にVAAKを設立。

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