携帯料金競争元年 ドコモ「月額2980円」の余波 楽天など新興勢力は窮地に=佐野正弘
総務省は2020年12月18日に携帯電話の番号ポータビリティー(MNP)に関するガイドラインの改正を発表し、携帯各社にMNP転出時の手数料を原則無料とすることを求めた。狙いは、菅政権が公約に掲げる携帯電話料金引き下げに向けた競争促進であり、既にソフトバンクやNTTドコモなどがMNP転出手数料の無料化を打ち出している。
乗り換え時の障壁解消に当たっては、2年間の契約継続を条件に料金を割り引く、いわゆる「2年縛り」が19年の電気通信事業法改正で有名無実化するなど、これまでも取り組みが進められてきたが、携帯各社間の競争が進んだとは言いがたい。各社は競争を活発化するため、乗り換え競争の軸となるサービスの開発を進めてきた。
そして発表されたのが21年3月から提供が始まるNTTドコモの新料金プラン「ahamo(アハモ)」だ。アハモは契約やサポートなどのサービスをオンライン限定とすることを条件に、月額2980円(税別)で20ギガバイトのデータ通信を利用できる。20年12月上旬のNTTドコモの発表を追うように、ソフトバンクも同月下旬、子会社LINEモバイルの吸収を前提とした新料金を打ち出した。料金は月額2980円(同)で20ギガバイトとアハモに並ぶ。KDDIもこの流れに乗るだろう。
こうした動きがあり、21年はアハモを中心に、オンラインでのサービス提供を主体とした、シンプルかつ低価格サービスが競争の大きな軸となる可能性が高い。一方、アハモなどのオンライン限定サービスプランの人気が高まれば、問われることになるのは携帯電話ショップの存在意義だ。「オンラインでも十分」と感じるユーザーが増えれば、携帯各社は地域の販売やサポートの拠点となっている携帯電話ショップの数を減らさざるを得ないだろう。しかし、そうなると、シニアを主体としたスマートフォン初心者のサポートをどうするのか、という問題が浮上することになる。
1強多弱も
そして、アハモによる影響を受け、苦しい立場に追い込まれる可能性が高いのが、格安SIMを提供する仮想移動体通信事業者(MVNO)などの新興勢力だ。とりわけ、20年に本格参入したばかりの楽天モバイルは大きな影響を受けると考えられる。同社は料金やサービス内容がアハモと非常に近い一方、エリア整備が途上であるためまだ顧客からの信頼を得るに至っていないという現状があるからだ。1年間の無料サービスを実施しているが、21年4月にはそれが終了する顧客が出てくるため、アハモに乗り換える可能性は高い。
そして、楽天モバイルなどが窮地に追い込まれることになれば、総務省の狙いとは裏腹に、携帯電話市場は大手3社の寡占が一層加速する。ソフトバンクやKDDIの状況次第では、NTTドコモによる1強多弱、ひいては電信電話公社時代の市場環境に戻ってしまう可能性さえある。
(佐野正弘・携帯電話ライター)