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経済・企業 挑戦者2021

伊橋成哉 WAGOON CEO 余剰衣類を台湾で「3点売り」

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 日本国内の売れ残り衣類を台湾で販売。「3着1000台湾元」で地元に浸透している。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=市川明代・編集部)

 年間15億着ともいわれる日本国内で売れ残った衣類を安く買い取り、台湾の消費者に「よりどり3着1000台湾元(約3600円)」で販売しています。

 日本のアパレル業界は、シーズンごとに新作を大量生産し、その半分以上を余剰在庫として抱えるという悪循環に陥っています。一部はアウトレットショップなどに持ち込まれますが、大半は廃棄処分されるのです。仕事で訪れた台湾で、人気の日本商材が日本の2倍近い価格で販売されていることに気付き、売れ残り衣類を低価格で買い取り、台湾で再販してはどうかと思い付きました。(挑戦者2021)

商品3点を自由に選べるWAGOONのECサイト
商品3点を自由に選べるWAGOONのECサイト

 ヒントになったのは、台湾に定着している「買1送1」(1個買ったら1個おまけ)の商習慣でした。「買1送1」「買2送1」という販売手法は確かにユニークなのですが、おまけで付いてくる商品は得てして不要だったり、あまりうれしくなかったりする場合が多いのです。最初から自由に3点選んで定額で購入するスタイルにすれば、台湾の消費者に喜ばれるのではないかと考えました。

 まずは知名度を上げるため2019年に台北市内に実店舗をオープンしました。20年5月には電子商取引(EC)サイトを開設し、レディースカジュアルを中心にこれまで約1万5000着の余剰衣類を販売してきました。

 海外でのセット販売という手法には、国内でのブランド毀損(きそん)リスクを避けるという狙いもあります。当初は知人のつてを頼りに仕入れ先を開拓しましたが、徐々にメーカー側から商品提供を持ちかけられるケースも増えています。

40歳で作曲家から転身

 40歳で起業するまで、音楽家として活動してきました。浜崎あゆみさん、倖田來未さんといったアーティストの楽曲、CM音楽など50曲以上を手がけました。ただ、もともとイギリスのロックが好きで、中学の頃からバンドを組んできたこともあって、アイドルやアニメが中心の日本の商業音楽を受注生産し続けることに限界も感じていました。

 エンタメ市場に伸びしろのありそうな新天地を探し、行き着いたのが台湾でした。現地で音楽事業の可能性を模索しましたが、日本と違って著作権の保護などの整備が不十分で、まだまだ厳しいと実感したのです。

 起業を機に、音楽家の引退宣言をしました。ただ、ビジネスには音楽と共通する部分がたくさんあります。僕の曲作りは、まず殴り書きをして、音を聴きながら修正していくスタイルです。台湾でのビジネスも、まずは旗を立てて、最終的に「譜面」にすればいいと楽観的に考えてきました。

 当社では今後、実店舗を更に2店ほど増やす予定です。台湾の飲食店やヘアサロン、英会話教室などとも提携し、「モノ」と「コト」を組み合わせて「3点1000元」で販売するサービスへと広げていくつもりです。

 アパレル業界の大量生産・大量廃棄は、長く続くとは考えていません。台湾の人々の購買動向のデータを蓄積することで、ゆくゆくはマーケティングビジネスなどにも乗り出したいと考えています。


企業概要

事業内容:国内アパレル余剰在庫の海外EC販売

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2018年7月

資本金:3500万円

従業員数:5人

商品3点を自由に選べるWAGOONのECサイト


 ■人物略歴

いはし・なるや

 1976年東京都生まれ。99年日本大学芸術学部卒業。作曲家として15年間、ジャニーズやエイベックスのアーティストらに楽曲を提供。17年に台湾でビジネスのアイデアを練り、音楽活動の「引退宣言」の後、WAGOON(ワゴーン)を創業。44歳。

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