藤原健真 HACARUS CEO 少データで使える「エコAI」
少ないデータ量で実用的なAIを作り出すハカルス。ディープラーニング(深層学習)で解決が難しい課題をスパースモデリングを活用し解決している。
(聞き手・構成=加藤結花・編集部)
人工知能(AI)を使ったデータ解析サービスを提供しています。世に数多く存在するAIベンチャーの中で、私たちのサービスが一線を画しているのが「スパースモデリング」という技術を用いているところ。「スパース」が日本語で「まばら」や「スカスカ」を意味するように、スパースモデリングは少ないデータで全体の傾向や特徴を導き出すことができる技術です。(挑戦者2021)
例えば、人の顔を認識する際、現在のAI技術の主流であるディープラーニングは、毛穴の開き方や耳の角度といった、私たちが実際に人の顔を見分ける際にほとんど参考にすることのないような部分を含め、あらゆる種類のデータを使います。そのため、ディープラーニングでは取り扱うデータ量が膨大になりますが、スパースモデリングでは、 目や鼻といった判定に重要なデータのみを使って学習することができます。より少ないデータで分析できるスパースモデリングは「エコAI」とも呼ばれます。まだ新しい技術のため、取り組んでいる企業は少ないですが、応用範囲は広いと考えています。
具体的には、症例の少ない希少疾患のデータ解析や新製品などサンプルの少ない商品の品質検査などにも活用でき、実際に需要があります。また、計算量が少なくて済むため、動作させるハードウエアも大がかりなものが不要となり、消費電力の少なさなどコスト面でも優位性があります。
10歳からプログラミング
当社は2014年、ユーザーに撮影してもらった食事のメニューの画像を基に、栄養指導などを行うヘルスケアアプリの会社としてスタートしました。しかし、当時はアプリの利用者が面倒くさがって撮影頻度が低くなり、十分なデータ量が集まらないという悩みを抱えていました。
少ないデータで食事指導のためのアルゴリズムを作りたい──。そんなことを考えていた16年ごろ、当時京都大学に助教として在籍していた、スパースモデリング研究で有名な大関真之先生(現東北大学大学院情報科学研究科教授)と知り合い、その技術を活用したビジネスを思いつきました。大関先生には現在も、ハカルスのチーフ科学アドバイザーとして関わってもらっています。
父親がソフトウエアのエンジニアだった影響で、10歳の頃にはパソコンでプログラミングを始めました。ゲームで遊ぶより、ゲームを作るのが早かったくらい。コンピューターサイエンスを学んだ留学先の米カリフォルニア州立大学では、周りが資金を調達して起業する人たちばかりだったことに大きな影響を受けました。ハカルスは4社目の起業です。
最初はスパースモデリング自体の知名度が低く、説明しても「本当に使えるのか?」と反応はイマイチ。しかし、19年4月に初成功して大きなニュースとなったブラックホール撮像で、スパースモデリングの技術が使われたことで知名度が一気に上がりました。今後は製薬会社の創薬やメーカーの材料開発など、より市場が大きく、かつさまざまな事業の核となる分野で、スパースモデリングによるAI技術を広めたいです。
企業概要
事業内容:スパースモデリング技術を使った人工知能(AI)の開発・提供
本社所在地:京都市中京区
設立:2014年1月
資本金:1億円(累計資金調達額:13憶円)
従業員数:約70人
■人物略歴
ふじわら・けんしん
1976年滋賀県出身。99年カリフォルニア州立大学卒業。ソニー・コンピュータエンタテインメントに入社し、ゲーム機「プレイステーション」の開発に携わる。26歳でITベンチャーを大学時代の友人と共同創業。その後も動画共有サイトなどの新事業で起業・売却を繰り返し、2014年にHACARUS(ハカルス)を創業。現在、代表取締役CEO(最高経営責任者)。