村上建治郎 スペクティ代表 SNS上の災害情報を可視化
SNS上に投稿される災害や事件・事故情報などをAIが解析、「危機」を可視化し利用者に届けるスペクティ。速報性などが好感され報道機関や自治体などでの導入が進んでいる。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=斎藤信世・編集部)
ツイッターやフェイスブックなどのSNS(交流サイト)に投稿される火事や交通事故、災害情報などをAI(人工知能)で解析し、信ぴょう性の高い情報を見やすく整えてから利用者に配信しています。(挑戦者2021)
例えばツイッター上に、「火事が起きている」などの投稿が上がった場合、AIがそれを裏付ける他の情報を探し、照合する仕組みになっています。また画像に関しても、加工がないか、ネット上にある過去の画像を拾ってきていないかなどを検証した上で、最終的に専門チームが確認してから配信しています。新着情報が利用者に届く際はAIアナウンサーの荒木ゆいが音声で読み上げ、スペクティの画面上に地図と連動して表示されます。
当初導入した企業はその大半が報道機関でしたが、今では自治体や官公庁、企業400社以上で使われています。特にここ数年は大雨や大雪などの自然災害が多く発生し、そうした災害対応や防災の観点で導入されています。
料金は、パソコン1台を使えるプランで月額7万5000円で、スマートフォンのアプリやパソコンを複数台使えるプランなどでも異なります。
2011年に東日本大震災が起きた際に、ボランティアとして東北に行きました。そこで感じたのは、東京にいて、テレビから伝わってくる情報と現地の状況の乖離(かいり)です。
東日本大震災で気づいた
ある日、東京のテレビ局が宮城県石巻市からのテレビ中継で、ボランティアが十分に足りているような伝え方をしていました。でも実際は、隣接する東松島市ではボランティアが不足している状況だったので、現場のリアルな状況が伝わらないことにもどかしさを感じました。
一方でツイッター上には、「ここでは救援物資が足りていません」などといった生の情報が投稿されていました。こういった情報を可視化し、きれいにまとめて提供することでよりリアルな情報を伝えることができるのではないかと思ったのが、起業のきっかけです。
もともと起業したかったわけではなく、大学に入る頃までは研究職に就きたいと考えていました。なので米国の大学では物理学を学んでいたのですが、向こうの生活でパソコンを触るようになったのをきっかけに、IT企業へ就職したいと思うようになりました。卒業後は日本に帰国し、ソニーのIT系子会社に就職しました。
5~6年働いた後、外資に行きたいとい思い、シスコシステムズに転職しました。
今後は、SNS上の情報を解析するだけではなく、総合的な危機管理サービスを提供していきます。
20年12月からは福井県と一緒に道路に設置したカメラから得た画像をAIで解析し、路面の凍結情報などをリアルタイムに判別する実証実験を行っています。いずれはそういった情報なども取り入れることで、総合的な危機管理サービスを目指していきたいです。
企業概要
事業内容:災害や事件・事故などの危機管理情報をリアルタイムに伝えるサービス「スペクティ」の開発・運営
本社所在地:東京都千代田区
設立:2011年11月
資本金:約7億円(資本準備金含む)
従業員数:60人
■人物略歴
むらかみ・けんじろう
1974年生まれ。桐蔭学園高等学校、米・ネバダ大学理学部物理学科卒業。ソニー子会社、シスコシステムズなどを経て、2011年11月にユークリッドラボ(現:スペクティ)を設立。東京都出身。46歳。