経済・企業挑戦者2021

飯田百合子 ボトルト代表 「中身」だけを買う時代に

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 飲み物の中身だけをお得に買えるアプリでプラスチックごみ削減を目指す。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=岡田英・編集部)

 お店にマイボトルを持っていけば、中身を割安に買え、ペットボトルのごみも減らせる──。そんなアプリ「BOTLTO(ボトルト)」を開発、運営しています。(挑戦者2021)

アプリで購入するとこれまでに節約したペットボトルの数が表示される
アプリで購入するとこれまでに節約したペットボトルの数が表示される

 スマートフォンにアプリをダウンロードし、地図上に表示されたお店を選ぶと、メニューが出てきます。例えば、代官山(東京都渋谷区)のあるカフェなら、通常のテークアウトでは530円(税込み)のハーブティー「モリンガハーブミックスティー」(300ミリリットル、アイス)が、このアプリでは約半額の250円(同)。クレジットカードや電子マネーでお金をチャージして購入し、お店に商品引き換え画面を見せると、マイボトルに飲み物を注いでくれます。購入すると、これまでに何本分のペットボトルを節約したかが画面に表示されます。

 飲み物の種類はコーヒーや紅茶のほか、フルーツやハーブを水につけ込んだデトックスウオーターや炭酸水が多いです。生ビールやカレーのルー、スープを入れてくれるお店も出ています。お店にとっても、環境意識の高いお客さんを集めることができます。メニューや容量、価格はお店が決め、売り上げの15%が手数料としてボトルトに入る仕組みです。

 登録店は首都圏を中心とした38店舗(2月12日現在)で、個人経営のカフェのほか、JR東日本の駅構内にあるベックスコーヒーショップの一部でも利用できます。今年中に100店舗に増やしたいと思っています。

 もともとは、国際会議などで同時通訳をやっていました。パイロットを派遣する外資系航空関連会社でカナダ人の上司の秘書を経験したのをきっかけに、技術者向けの英語の翻訳や通訳を学び、フリーランスの同時通訳・翻訳者として独立したんです。2002年には、通訳の派遣や、国際的な会議・プロジェクトの運営支援を手掛ける会社を起業しました。

震災後に転機

 東日本大震災後、マレーシアのバイオマス発電のプロジェクトに関わり、環境に貢献できるビジネスを自分もできないか、と考えるようになりました。そんな矢先の14年、オーストラリアで、ペットボトルのごみを減らすため、街中にウオーターサーバー(水の自動販売機)を設置し、マイボトルに注いだ水を販売する事業に携わったことが、ボトルトの仕組みを思いつくきっかけになりました。

 自動販売機ではなくITを使って日本でうまくできないか考えていたところで、知人の紹介でフィンテックの技術者と出会い、18年8月にボトルトを設立。毎日のように議論を重ねながら19年4月にアプリを開発し、6月には環境への意識が高い代官山の商店会の協力で、導入が始まりました。

 いかにお店を増やすかには心を砕いています。今年は横浜開港祭という数十万人規模のイベントに参加し、地域のお店を巻き込んだり、神奈川県の複数の海水浴場で海の家が全店導入する予定です。利用者数を今年中に1万人に増やすのが目標で、飲み物だけでなく、食べ物にも「容器レス」を広げ、「中身だけ買いに行く時代」を作りたいです。


企業概要

事業内容:飲食物の中身だけを買える事前決済アプリの企画・開発・運営

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2018年8月

資本金:300万円(2月1日現在)

従業員数:8人(役員含む)


 ■人物略歴

いいだ・ゆりこ

 1968年生まれ。神奈川県出身。2009年慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。外資系航空関連会社で外国人パイロットの秘書を務めた後、フリーランスの通訳・翻訳者として独立。02年に同時通訳者の派遣や国際会議の運営支援を行う会社「レオズ・インターナショナル」を設立。18年8月に「BOTLTO(ボトルト)」を設立した。52歳。

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