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経済・企業 挑戦者2021

安部一真 メドリング代表 ベトナムで日本基準の医療を

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 ベトナムで診療所を展開するメドリング。医療で課題が多い同国には、質の高い身近な診療所が必要だとして、全国展開を目指す。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=斎藤信世・編集部)

ベトナム・ハノイで開業した1号店
ベトナム・ハノイで開業した1号店

 2020年10月に、ベトナム・ハノイで診療所の1号店を開業しました。同国では珍しいクラウド型電子カルテなどを活用し、日本基準の医療サービスを展開しています。(挑戦者2021)

 ベトナムは経済成長が著しい国ですが、医療格差が著しく、信頼できる病院や診療所が身近にあまりないのが現状です。私たちの診療所は一般内科のほか、健康診断や生活習慣病の予防医療などを行っています。診察室は2部屋で、日本のサプリメントなどを販売する薬局も併設しています。常勤の医師2人と看護師など計12人が勤務しています。今年1月時点で1日に約20人が診療に訪れています。

 全て自由診療で、料金は5000円程度。庶民には高いので、現在は富裕層が中心です。日本とインターネットでつないで、日本人医師が遠隔診療を行う実証実験もしています。また、AI(人工知能)を活用して、医師の診断を手助けする仕組み作りも始めています。

 ベトナムで事業を始めたのは、医療分野で解決すべき課題が山積していて、人口増に伴って診療所のニーズも増えると考えたからです。ベトナムでは公的保険が使えますが、指定病院で受診しなければならず、その質がばらばらで、数も日本の10分の1程度です。庶民は身近な病院を信用しておらず、症状がひどくなるまで病院に行かなかったり、有名病院で診療してもらうために泊まり込みで順番を待ったりします。

 政府もこうした課題を分かっているので、外資系企業の医療分野への参入を認めています。私は、コンビニエンスストアのように、手軽で、一定の質が担保された信頼できる診療所の展開を目指しています。今年の夏には、同じくハノイで小児科診療を行う2号店を開業予定です。

父の死をきっかけに

 私が4歳の時に、父が30歳の若さで亡くなりました。死因は心筋梗塞(こうそく)。肥満体型だったそうです。

 それでも私は、遺族年金などのおかげで高校、大学に進学することができました。父の死をきっかけに幼心にもいろいろ感じることがありました。医療財政を健全化させること、良い医療を安く提供することなど、制度を変える必要があると考えるようになったんです。大学卒業後は経済産業省に入省し、1年間だけ医療関連の政策に携わることができました。

 約5年勤めた後、ITベンチャーに転職しました。その後、東京都議選に出馬したりもしましたが、ビジネスでも、政治でも、思ったような結果を出すことができませんでした。

 その後、先輩から認知症対策関連の事業の立ち上げの誘いを受け、共同代表になりました。そこからさらに自分一人でメドリングを立ち上げました。根底にあったのは父のような人を減らしたいという思いでした。

 今後は25年までにフランチャイズを中心に、ベトナムで100カ所の診療所開業を目指します。いずれはカンボジアやインドネシアなどにも進出し、その先には日本市場の開拓も見据えています。


企業概要

事業内容:遠隔診療やAIを活用したスマート診療所「METiC」をベトナムで展開

本社所在地:東京都文京区

設立:2019年3月

資本金:412万円

従業員数:22人

ベトナム・ハノイで開業した1号店メドリング提供


 ■人物略歴

あべ・かずま

 1984年生まれ。茨城県立土浦第一高等学校、2007年東京大学法学部卒業。経済産業省、ITベンチャーのSpeeeなどを経て19年にメドリング設立。茨城県出身。36歳。

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