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経済・企業 挑戦者2021

佐藤寿彦 プレシジョン代表 著名医師の知見をデータ化

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 著名医師の知見を反映した診療支援システムの開発・提供で、全国どこの病院にかかっても一定以上の医療サービスを受けられる「医療の標準化」を目指す。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=加藤結花・編集部)

 AI(人工知能)を用いた診療支援システムを開発・提供し、2021年3月時点で豊田地域医療センター、湘南鎌倉総合病院など40以上の医療機関に導入されています。(挑戦者2021)

 大学教授など医師2000人が執筆・監修した3000疾患、700病状の所見をまとめたデジタルの診療マニュアル(CDS)を作成し、患者が入力した情報に応じてこの著名医師の知見が反映されるシステムを作りました。例えば、受診の理由に頭痛を選ぶと、症状はいつからか、どのような痛みかといった質問が出てくるのでこれに答えていくと、AIが電子カルテの下書きを作成。診断する医師は、著名医師が考える関連性が高いと思われる病名や検査・処方の例が検索できます。

 医療の現場は非常に忙しく、医療情報は膨大です。全ての情報を医師が完璧に頭に入れることは現実的ではありません。適切な診療が行われなかった「診断エラー」が理由と考えられる死亡者が米国で年間25万人以上いるとされていますが、医療訴訟が活発なこともあり、医療支援システムの導入が先行。システムを用いたことで診断エラーが24%から2%に減った報告もありました。一方、日本の医療現場では、紙にまとめられた医療情報はあるものの、現場ではほとんど活用されていませんでした。そこで、現場で読みやすいデータ提供やシステムを連携させ、「書いて終わり」だった紙媒体とは違い、情報を更新し続けることができるようにしました。すでに1万を超える患者のデータが反映されています。医師からは「忘れてしまっていた医療情報を思い出すことができ、診療が楽になった」といった感想をもらっています。

患者は30個程度の質問に答える
患者は30個程度の質問に答える

 また、問診入力、お薬手帳のデータ化などのデジタル化で、初診のカルテ作成にかかる時間は手入力と比べ半分以下に。来院前にスマートフォンなどを使って入力できるので、病院での滞在時間が減り新型コロナウイルス感染のリスクも低減できます。

 プレシジョンのサービスは、医師の臨床などに基づく論拠の確かな医療データが売りです。これが実現できたのは、約10年前、医学系出版社エルゼビア・ジャパンに在籍し、国内最大級のデジタル教科書「今日の臨床サポート」の責任者・編集者として、1300人以上の医師と携わった経験があります。このときにできたネットワークと信頼関係を軸に、執筆を依頼しました。

運に左右されない仕事を

 東京大理学部に入り、たんぱく質の三次元構造の決定をする研究をしていましたが、運次第なところも多いと感じていました。より実践的なことがしたいと製薬を専攻。薬のことを実際に理解したいという気持ちもあり、千葉大医学部に3年次編入しました。

 現状は医師の業務負担軽減というメリットが喜ばれますが、診療支援にはそれだけにはとどまらない効果があります。プレシジョンのシステムを広く導入してもらうことで、医療エラーを減らし、どこの病院にかかっても一定の医療サービスが受けられる「医療の標準化」に貢献したいです。


企業概要

事業内容:AIを活用した診療支援システム

本社所在地:東京都文京区

設立:2016年11月

資本金:1億8000万円(資本準備金含む)

従業員数:20人


 ■人物略歴

さとう・ひさひこ

 1975年生まれ。群馬県出身。2006年千葉大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、医療系コンサルティングファーム・メディヴァ、医学系出版社エルゼビア・ジャパンなどを経て、16年にプレシジョン創業。人工知能(AI)の研究者でもあり、同社のAIアドバイザーを務める東京大学の松尾豊研究室と共同研究を行っている。

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