岩元美智彦 日本環境設計会長 不純物“ゼロ”のリサイクル
世界中の企業がいまだに実現できていない、化学的手法によるリサイクル技術を開発。究極の循環型社会を目指して、世界の環境問題に革命を起こす。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=白鳥達哉・編集部)
古くなったペットボトルや服をリサイクルする技術の開発と、半永久的にリサイクルを繰り返すための循環型インフラの仕組みの提案・構築を行っています。(挑戦者2021)
5月からは、川崎市のペットボトルのリサイクル工場をフル稼働します。処理能力は年間2万2000トン(500ミリリットルペットボトル約7億3200万本分)。ペットボトルからペットボトルを作る水平リサイクルの工場です。
リサイクル技術には大きく二つ、「メカニカル」と「ケミカル」があります。現在、一般的なのはメカニカル。ペットボトルを例にとると、ごみとして出されたペットボトルを回収し、粉砕・洗浄などを行って、ペットボトルや服などに作り替えるという流れです。しかし、汚れなどの不純物を完全に取り除くことができず、多くても2回しかリサイクルできないという課題がありました。
我々は世界初となるケミカルリサイクル技術「BHET法」によって、ペットボトルや服の原料となるPET(ポリエチレンテレフタレート)を分子レベルで分解し、BHET(ビス2ヒドロキシエチルテレフタレート)という有機化合物を生成、再結合して新しいPETを製造しています。不純物を完全に取り除けるため、半永久的なリサイクルが可能になり、二酸化炭素(CO2)の削減にも効果的です。
すでに稼働している北九州市の工場では、BHET法を用いて繊維のリサイクルを行っています。服から服を作る水平リサイクルの工場で、リサイクルされた糸や生地を用いて、「ジーユー」などのメーカーと連携して新しい商品も世に送り出しています。
また、我々はたくさんの人・企業を巻き込んで、回収から再生品の製造までの循環インフラの構築も行っています。リサイクルでは「回収」の作業が非常に重要であるため、良品計画や三越伊勢丹ホールディングスなどの企業と連携して、全国約2000カ所に回収ボックスを設置しています。
消費者がリサイクルに積極的にかかわれる、参加型イベントも打ち出しています。最近だとNTTドコモや自治体と協力して、家庭にある古い携帯電話を回収して金・銀・銅の金属を取り出し、東京オリンピックのメダルを作るというプロジェクトを企画しています。
世界進出も始まる
リサイクルに興味を持ったのは繊維関連商社に勤めていたとき、ペットボトルから繊維を作って販売するプロジェクトにかかわったことです。当時、繊維から繊維の水平リサイクルはあまり技術が進んでおらず、何かいい手はないかと考えていたとき、とうもろこしからバイオエタノール(バイオ燃料)を作るという話題を見て、だったら同じ植物である綿からも作れるのではと考えました。共同創業者の高尾正樹社長と簡単な実験をしてみると、不可能ではなさそうだということが分かり、今の会社を立ち上げました。
BHET法の基礎理論は前々からあったのですが、実用化するための技術などに課題があり、ようやく実現することができました。
今後は世界市場に打って出ます。昨年はフランスの化学メーカー大手アクセンスと事業提携を行いました。さらに今年は、フランスのリヨンに工場を作る計画もあり、関係者と協議を進めている最中です。
企業概要
事業内容:プラスチック、衣類のリサイクル開発、循環型社会におけるリサイクルインフラ構築・運営
本社所在地:東京都千代田区(2021年5月より川崎市に移転)
設立:2007年1月
資本金:42億200万円(資本準備金含む)
従業員数:104人(2021年3月末現在、役員・パート含む)
■人物略歴
いわもと・みちひこ
1964年鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。営業として勤務していた95年、容器包装リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年1月、現社長の高尾正樹とともに日本環境設計を設立、56歳。