藤田英明 アニスピホールディングス代表 保護犬・猫と障害者の暮らし
「ペット共生型障がい者グループホーム」は、障害のある人が保護犬・猫と共に暮らす日本初のビジネスモデルだ。動物が人を癒やすアニマルセラピー効果も期待できる。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=加藤結花・編集部)
障害のある人の居場所を社会に作りたい──。その受け皿として考えたのが、空き家を活用し、障害のある入居者が保護犬・猫と一緒に暮らす「ペット共生型障がい者グループホーム」の運営でした。社会復帰を希望する障害者に住む場所を提供するだけでなく、全国の空き家問題やペットの殺処分問題という「一石三鳥」の社会問題の解決にもつながります。2018年5月に千葉県八千代市に第1号拠点をオープンさせるとすぐに満床となり、今では全国で537拠点(5月1日現在)に増えました。(挑戦者2021)
私たちのグループホームの最大の特徴はペットと一緒に暮らせることです。実際、動物と暮らすことが入居者の皆さんに非常にいい効果をもたらしています。例えば、ある60代の男性はアルコール依存症で、かつ認知症で引きこもり気味でした。しかし、保護犬をかわいがって日に5回も散歩するようになりました。その結果、健康的な生活が送れるようになり、散歩先でも犬を通じた友達ができ、社交性を取り戻し現在は週5回、就労支援施設で働いてます。人だけの関与では無理なことでした。てんかんはストレスが多いと発症する確率が高まるといわれますが、月1回程度、てんかん発作を起こしていた若い男性は発作の頻度が6カ月に1回に減りました。
グループホームは平均1軒、5人程度が共同生活できる規模で運営しています。障害者には障害基礎年金として月額6万円が支給されており、家賃はその中から支払いできる価格帯で設定しています。空き家の活用には家賃を抑える効果もあります。施設には世話人がおり、料理や掃除、服薬管理など入居者の身の回りの暮らしを支えます。障害の軽重で額は変わりますが、1人当たり月18万円程度が訓練等給付として支給されるため、ここからグループの人件費などをまかなうことができます。また、全国のグループホームの入居期間の平均が19年程度と長いため、入居者が確保できれば長期にわたり安定的な運営が可能なビジネスモデルになっています。
貧困の「正体」
もともとはサッカー少年でした。4歳から始めて小学校の時に全国大会に出場。中学3年の時にブラジルに行きました。そこで衝撃を受けたのがストリートチルドレンであふれる現地の貧困ぶりでした。それから貧困問題について考えるようになり、貧困の背景として障害が大きく影響していることを知りました。大学では社会福祉を勉強しました。印象深かったのが実習先の精神科の病院にいた80代の男性でした。退院しても行くところがないため、68年間入院しているということでした。こういう人たちが社会復帰するための受け皿が必要だとの思いを強く持ちました。
全国でグループホームは30万人分ほどが不足しているといわれています。社会問題を解決する、というのが私の生きがいであり、この切実なニーズが満たされるまで突き進んでいくつもりです。
企業概要
事業内容:ペット共生型障がい者グループホームの運営など
本社所在地:東京都千代田区
設立:2016年8月
資本金:5300万円
従業員数:約170人(5月1日現在)
■人物略歴
ふじた・ひであき
1975年生まれ。東京都出身。明治学院大学卒業。大学では社会福祉学科で学び、98年社会福祉法人に就職。同法人で介護職員・生活相談員、事務長などとして勤務したのち、独立。2003年夜間対応の小規模デイサービスを行う施設を埼玉県で起業、約950施設以上まで拡大して事業を売却。18年からは「ペット共生型障がい者グループホームわおん」を展開している。