MARKS 事故物件を成仏させます
花原浩二 MARKS社長 事故物件、“成仏”で再生
殺人や自死、孤独死があった住宅などの「事故物件」。リフォーム後に「成仏物件」として仲介・販売し、輪廻(りんね)転生させる。
(聞き手=中園敦二・編集部)
不動産業者の大半は事故物件の取り扱いを嫌がります。処分できずに困り果てている遺族・オーナーと、事故物件でも気にならないという入居者を引き合わせるサイト「成仏不動産」を2019年に開設しました。(挑戦者2021)
当初は所有者が自ら進んで「事故物件」と言いたくないので、件数は伸びませんでした。そこで、「事故物件」とするのではなく、思い切って「殺人」「孤独死」「お墓が見える」など七つに区分しました。
また、事故物件は金融機関から評価を付けてもらえず、ローンが組めない場合もありました。それならと、自社で事故物件を買い取り、おしゃれにリノベーションして販売することにしました。事故物件であったことを気にしない外国人や、一般的に賃貸などで敬遠されがちなお年寄りなどに需要はあるのです。
特殊清掃から遺品処理、販売までワンストップで手掛けます。発見が遅れた孤独死の場合、強烈な臭いで、防護服にマスクを付けないと部屋に入れないこともあります。体液を拭き取るのではなく、特殊な溶剤を使ってタンパク質の成分を分解させ、臭いのもとを取り除きます。床を剥がしたり、臭いが付いている物を取り外します。さらに、お祓(はら)いも済ませた物件には「成仏認定書」も発行します。「汚い・怖い」を払拭(ふっしょく)する新たな価値基準をつくりました。
阪神大震災からの志
阪神大震災(1995年1月)の直後、大学入試のため被災地の神戸市を訪れました。建物が壊れ、その痛ましい光景が心に残りました。地震に負けない家を造ること、人の命を救うことが何より大事だと思い、大和ハウス工業に入社しました。鉄骨造りの戸建て販売を担当し、一つの家を売ることは一つの家族を救っているんだという感覚でしたね。全国約1700人の営業マンの中で契約額で1位にもなりました。
社会人になってから、父が亡くなり母が一人暮らしとなりましたが、その時、過疎化で空き家が増えた故郷を目の当たりにしました。新築の家を造ることがすべてではない、新築もいずれは空き家になるかもしれないという思いが強まり、大手ではできない仕事をしようと、2016年に独立しました。
最初の2年間で建て売り事業などによって経営を軌道に乗せ、世の中で困っていることを一歩踏み込んでやろうと始めたのが「成仏不動産」です。不動産事業者から「事故物件を買い取ってほしい」と依頼されたのがきっかけでした。現在は月30件程度の事故物件の相談が来ています。
孤独死は年間約3万件といわれ、自死は約2万件にも上ります。これまで事故物件の買い取り市場はブラックボックスのようでした。いくらで取引するのが正しいのか、持ち主も買い主も分かっていない。遺族は早く手放そうとするので価格が不透明化していました。
「事故物件」の明確な定義はありませんが、しっかりと相場調査をして本来あるべき価格で取引することで流通できる市場を作りたいですね。「成仏物件」として住んでもらうことで、物件価格を正常化させれば、不動産そのものの価値も上がると信じています。
企業概要
事業内容:不動産売買仲介事業、建築事業、インバウンド事業など
本社所在地:横浜市中区
設立:2011年3月
資本金:900万円
従業員数:14人
■人物略歴
はなはら・こうじ
1977年兵庫県豊岡市生まれ。流通科学大卒業後、99年に大和ハウス工業入社。神戸支店を振り出しに横浜支社分譲住宅営業所所長など歴任。2016年10月にMARKS(マークス)社長。44歳。