スタートバーン アートの価値をブロックチェーンで支える
施井泰平 スタートバーン代表 アートの価値を支える
有名なギャラリーにかかわらないとアートとは認知されない──。アートの意味に疑問を感じ、価値を再定義する世界共通のインフラ提供を仕掛ける。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=白鳥達哉・編集部)
絵画などをはじめとしたアート作品が世界中で売買されるとき、その価値を保障するのはギャラリー(画廊)が発行する証明書です。しかし、証明書はギャラリー独自のもので、改ざんやコピー、紛失のリスクが高いという問題があり、ビジネスの信用性を損なう要因になっています。(挑戦者2021)
たとえば、不動産の場合は、土地を持っている人が誰か、所有者が誰から誰に移転してきたかという情報を国が登記し、管理しています。これによって、土地や家が間違いなくその人のものであるという証明ができます。一方、アートはグローバルに流通するもので、国をまたいだ登記のシステム構築は非常に難しく、これまでは存在しませんでした。
そこで、仮想通貨(暗号資産)などに使われている「ブロックチェーン技術」を利用し、世界共通となる登記のインフラを作っています。作品の諸情報をデジタルデータ化し、作品名や作者名、制作日、情報の登録者、作品が誰の手に渡ってきたかという来歴情報、作品を展示する際のルールなど登録できます。
また、「ハイパースペクトル」というキャンバスや色の素材までが分かる情報や、分子レベルでID(識別情報)を刻印できる透明なケイ素を吹きかけて、その情報を保管することもできます。また、さらにICタグを作品に付けて、それを利用して情報の確認もできます。この仕組みを「スタートバーン・サート(CERT.)」と呼んでいます。
業界の常識に疑問
大学卒業後、アーティストとして活動を始め、なかなかうまくいかず苦労しながら個展や展示会に出展を続けるなかで、世界でも数カ所しかない有名ギャラリーに展示されないとアーティストとして認知されないという業界の仕組みに疑問を持つようになりました。そして、誰が作り、どのようなギャラリーに展示され、どのような人たちの手に渡ってきたのか、そのような情報が分かれば、有名ギャラリーと同じ価値を持ってくるのではと考え、そういったインフラ技術が作れないかを模索し始めます。
ただ、技術の開発は自分一人でプログラミングをするにも限界があり、賛同者も資金も必要です。諦めようとも一瞬考えたのですが、東京大学に産学連携の企業支援施設があることを知り、そこならば人材も集められるのではと考え、大学院生として入学、在学中に外部の仕事を請け負いながら何とか資金を捻出し、会社を設立しました。
導入先も増えてきています。有名な日動画廊の現代美術部門で採用されているほか、日本最大級の「アートフェア東京」というイベントで展示されたクロード・モネの絵画にも導入されました。また、集英社の「集英社マンガアートヘリテージ」という、「ワンピース」など世界でも有名な漫画の1シーンをアート作品として販売するプロジェクトにも我々の技術が使われています。今年の5月には京大・東大関連のベンチャーキャピタルから11.2億円の資金調達も行いました。これを元にさらなる技術強化と、今後は国際的な普及を目指していきます。
企業概要
事業内容:アートの流通・評価のためのインフラ構築
本社所在地:東京都文京区
設立:2014年3月
資本金:16億円(資本準備金含む)
従業員数:38人(2021年3月末現在、役員・インターン含む)
「スタートバーン・サート」はシールとカード、2種類のタイプがある
■人物略歴
しい・たいへい
1977年東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、美術家としてギャラリーや美術館で展示を行う。東京芸術大学の非常勤講師を務めた後、東京大学大学院に入学し、在学中の2014年、スタートバーンを設立、43歳。