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経済・企業 挑戦者2021

東志保 リリーメドテック代表取締役 痛くない乳がん検査で女性支える

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 女性の多くが経験する乳がん検査。「痛い」「恥ずかしい」といった理由で苦手意識を持つ人も少なくない。そんな現状を変える、新たな検査装置が誕生した。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=斎藤信世・編集部)

 乳がん検査向けに、乳房用の画像診断装置「ココリー」の開発・販売を行っています。装置はベッド型で、中央に丸い穴が開いていて、その中にリング型の超音波送受信機が搭載されています。女性がうつぶせになり、乳房を片方ずつ入れると、乳房の三次元画像が撮れる仕組みです。(挑戦者2021)

 乳がん検査といえば、マンモグラフィー(乳房X線)検査や、超音波(エコー)検査が一般的。でも、マンモグラフィー検査は、乳房を圧迫して撮影するため痛いんです。また、乳腺が発達している人だと、X線画像が白く写るので、がんと見分けがつかないんです。

 一方の超音波検査も、そもそも検査を行う技師の数が少ない上に、技師の技能にもばらつきがあります。それで日本ではマンモグラフィー検査を受ける人が多いんです。

 その点ココリーは、痛みが少なく、被ばくの心配もない。また、従来のエコー検査の8倍のエコーを使っているため、診断の質も安定している。従来の乳がん検査が抱えていた課題を一挙に解決できる装置なんです。5月10日の販売開始以降、検診センターからの問い合わせが多く寄せられています。

両親の死を乗り越えて

米アリゾナ州立大の卒業式後にホストファミリーと 東志保さん提供
米アリゾナ州立大の卒業式後にホストファミリーと 東志保さん提供

 子供の頃は宇宙に憧れました。成長してからは、ただ空を眺めるだけでなく、航空宇宙や天文学を勉強したいと思うようになったのですが、安定志向の父に止められて、大学では物理学を学びました。卒業後は日立製作所で働いていましたが、夢を諦めきれず、米国に留学をしました。

 ところが、留学直後に父親が亡くなったんです。金銭的な余裕がなくなり、航空宇宙は諦めることにしました。相当悔しかったですね。「結局、運命に翻弄(ほんろう)されるのか」と。

 母親は46歳で、父親も59歳で亡くなりました。母も父も60歳までは仕事を頑張って、引退後は悠々自適に暮らそうと考えていたみたいですが、結局それはかなわなかった。両親の死をきっかけに、人生観ががらりと変わりました。人生はあまり長期的な計画を立てるべきじゃないんだ、と。やりたいことがあったら我慢せず、すぐにやるべきなんだ、と。

 父が亡くなってしばらくは民間企業で働き、プライベートでは日立製作所時代に出会った今の旦那さんと結婚しました。彼は当時、東京大学で医療用超音波の研究をしていて、起業を考えていました。それで、「一緒にやらないか」と声をかけてくれて、思い切って会社を辞めて起業しました。

 でも資金調達が大変でした。乳がんは女性の疾患なので、「興味がない」という男性が多く、そもそもマンモグラフィーが何なのか分からない人も少なくなかった。なので資金調達を円滑に進めるために、いろいろなアワード(賞)に応募して、結構な数の賞もいただきました。その甲斐あって、大学発のベンチャーに特化したベンチャーキャピタルや事業会社などがお金を出してくれましたね。

 5年後をめどにココリーを40台程度販売したいです。いずれ関節など骨がある部位にも対応範囲を広げられるよう開発を進めていきたいです。


企業概要

事業内容:医療機器の開発・販売

本社所在地:東京都文京区

設立:2016年5月

資本金:約21億円

従業員数:41人(アルバイト含む)


 ■人物略歴

あずま・しほ

 1982年茨城県ひたちなか市生まれ。2005年電気通信大学を卒業。日立製作所を経て、07年米アリゾナ州立大学で航空宇宙工学修士課程修了。16年5月にリリーメドテックを設立。38歳。

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