週刊エコノミスト Online ワクチン接種で始まる 沸騰経済
ホテルは満室、レストランに行列……ハワイ熱狂ルポ=鳥海高太朗
日本人に人気の観光地ハワイはワクチン接種率6割と全米でも高く、5月から屋外でのマスク着用義務がなくなった。アメリカ本土からの観光客急増でホテルが活況となる一方、レンタカー価格はコロナ前の最大10倍に値上がりた。レストランは予約困難で順番待ちの行列も出ている。
2021年6月下旬のハワイ、ワイキキビーチはコロナ前と変わらないくらい多くの観光客で賑わっていた。しかし、日本人の姿はほとんど見られない。その多くはアメリカ本土からハワイを訪れているアメリカ人だ。筆者がホノルルに羽田からの全日本空輸(ANA)便で到着した際にも同じ時間帯に到着する国際便はなく、コロナ前に比べてスムーズに入国ができた。
逆にアメリカ本土からの国内線は多くの人を乗せて到着している。以前はアメリカもロサンゼルスやサンフランシスコ、シアトルなど西海岸からハワイを訪れる人がいたが、今はニューヨークやボストンなどの東部をはじめ、シカゴ、ダラス、アトランタ、ヒューストンなどの中南部も含め全米各地からの直行便がホノルルへ飛んでいる。
聞かなくなった日本語
ワイキキビーチ沿いにあるシェラトン・ワイキキは、1636室というワイキキでも圧倒的な部屋数を誇るホテルである。従来は日本人の宿泊比率が7割近くになる時もあったが、今は日本人の宿泊はわずかであり、数%程度しかない。筆者も実際にシェラトン・ワイキキに宿泊したが、ホテル内でほとんど日本語を聞く事はなく、案内表示は日本語であるが、日本人もしくは日本語が話せる人も少ない。
日本人向けサービス業は一時解雇
現状、ハワイにおいては日本人向けのサービスを主にしている従業員は、その多くは失業保険がもらえる一時解雇の状態が続いている。ホテルやレストランを含めて、今回の約1週間の滞在中、会話のほとんどが英語だった。数少ない日本人スタッフがいるお土産店で話を聞いたが、特にワイキキビーチ周辺のホテルに宿泊する日本人は限られているとのことだ。
日本から訪れる人の多くは、ハワイにコンドミニアムやタイムシェアを持っている1カ月近く滞在する人が多いそうだ。ハワイを訪れる日本人の平均日数は2週間で、帰国後の14日間の自主待機があることから、一度ハワイに来たら長期間滞在する傾向となっている。
米国観光客の増加で稼働率9割
しかしながら5月中旬以降、アメリカ本土からの観光客が増えたことで各ホテルでは、6月の宿泊稼働率は約8割、7月の稼働においては9割を超える勢いになっている。現在、アメリカ本土からハワイへ向かう路線の安売り競争が激化している。片道2万円以下の航空券も見つけることができ、今のハワイは、アメリカ国民でも初めてハワイを訪れる人が圧倒的とのことだ。
21年の春先にワイキキビーチ周辺ホテルも含めて、アメリカ人向けに通常よりもかなり安い料金で販売したことが、日本人を始め海外からの観光客が激減している中でも高い稼働率を確保できている要因となっている。稼働率が高くなったことで宿泊料金は2年前のコロナ前の状況に戻りつつある。アメリカ人自身もヨーロッパやアジアなど海外旅行がまだ簡単ではないことで、国内旅行として気軽に行けるハワイ旅行を計画している人が増えている。
全米で空前のハワイブーム
ハワイ州では、全米の中でもワクチン接種率が高く、7月8日時点での摂取率は58・1%となり、60%近くに達した。7月8日以降、アメリカ本土からの入国においては、ワクチンの接種証明書(アメリカCDC発行のワクチン証明書)があれば、PCR検査の陰性証明書の提出も不要となり、アメリカ本土からハワイへより気軽に訪れることが可能となった。
アメリカ本土からのハワイブームはあと1年くらい続く可能性があり、日本人をはじめ海外からの観光客が戻るまでのハワイ観光を支えることになり、改めて自国民の国内旅行はワクチン接種が進んだことでハワイ経済を支えている。
マスク着用義務解除で雰囲気が一変
5月25日からは屋外におけるマスク着用が義務でなくなったことで、ハワイの雰囲気も大きく変わった。この頃からアメリカ本土からの観光客が増え始めた時期とも重なっていたが、7月上旬に実際にカラカウア通りを歩いてみても3人に2人はマスクを外している状況だった。
飲食店については筆者が訪れた6月末から7月上旬は、従来の座席数の50%に制限され、隣の席との間隔も6フィート(約1・8メートル)が確保されており、日本国内と比べてもゆったりとした配置になっていた。実際に食事をしていても距離が近くて怖いと思うことは滞在中一度もなかった。7月8日からは従来の75%の座席数までの入店が可能となり、入店できる人数が増えた。
人気のレストランに行列も
ただ、課題もある。レストランの閉店や休業等は、日本に比べると少ない感じであるが、座席数が制限されていることもあり、人気レストランの予約は現地に到着してからはほとんど予約できないくらい混雑していた。また、少しでも安く食事をしたい人を中心にテイクアウトも好調だ。朝もテイクアウトのコーヒーショップには長い列ができており、ワクチン接種率が高くなることで、ハワイは完全にかつての賑やかな光景が戻っている。
レンタカー価格は10倍に
レンタカーは、台数が不足している。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった20年の春以降、利用者が全くいなくなったことから、レンタカーの車を売却したり、アメリカ本土に移動させたりするなど、レンタカー車両が大幅に減少。5月後半からアメリカ本土からの観光客が急増したことで、レンタカー不足に陥り、事前予約なしで借りることは不可能となっているほか、レンタカーの価格も急上昇している。ワイキキのレンタカー価格はコロナ前は1日50~100ドル程度だったが、足元では300~500ドルに上昇し、それでも借りられればまだ良い方だ。
ハワイ州内では、ホノルルがあるオアフ島以上にマウイ島やハワイ島などの離島で、レンタカー不足がより深刻になっている。中古車の取引価格も同様に上昇している。購入した価格よりも高い金額で売却することが可能な車が多いとのことだが、レンタカー不足はもう1年続く可能性が高いとハワイの旅行関係者は話す。
「日本人に戻ってきてほしい」
また現地では、「早く日本人観光客に戻ってきてほしい」という声を多く聞いた。日本人の観光客は礼儀正しく、部屋もきれいに使うほか、ハワイ滞在中の消費額もアメリカ人観光客に比べると多いことなどが、日本人を待ちわびる理由のようだ。
ハワイ州では、現状では日本人が入国する場合、日本出発便の72時間以内にハワイ州で定められた日本国内の指定の病院でまず陰性証明を取得することが必要だ。そして、ハワイ州のセーフトラベルズプログラム(事前検査)に渡航情報を登録し、更に出発24時間を切った段階で健康状態の質問に回答するなどの手続きが必要となる。これらを終わらせることでホノルル到着後は通常の入国審査の後、すぐに到着ロビーに出ることができる。
日本帰国後は14日間隔離
むしろ今一番の問題は、日本への帰国後、14日間の自主隔離を求められることだ。仕事をリタイヤしている人や自宅で完全テレワークが可能な人でない限り、2週間自由に動けないというのはネックになる。
ハワイに入国すること自体のハードルは高くないため、今後は2回のワクチン接種を終えた65歳以上の高齢者を中心に、ハワイに2週間以上滞在するロングステイでの渡航の動きが少しずつ見られそうだ。
64歳以下の人でも早い人では7月中に2回目の接種を終える人が出てきており、帰国時の14日間自主待機ルールが緩和されればすぐにでも観光客が動き出すだろう。日本側の入国要件が緩和される頃には、日本のワクチンパスポートの提示で陰性証明書なしにハワイに入国できる可能性も十分に考えられる。
ANAが大型機をホノルル便に投入
ANAでは8月9日・13日に約1年5カ月ぶりに総2階建て飛行機で520席あるエアバスA380を成田~ホノルル線に投入することを発表した。7月21日には日本航空(JAL)が設立した国際線中長距離LCCのZIPAIRも週1便で運航を再開する。少しずつ回復へ向けた動きが出ている。
日本人が戻らないと、本格的なハワイの観光復活とは言えない。しかし、これから日本のワクチン接種率が向上し、日本でワクチン接種を2回終えたことを証明するワクチンパスポートの提示によって帰国後の自主待機が免除もしくは3日間程度になれば、一気にハワイを訪れる日本人が増える可能性が高い。オリンピック・パラリンピックが閉幕し、衆議院選挙後の早くても10月以降の議論にはなるが、年末年始には帰国後の自主待機のルールが緩和され、ハワイに多くの日本人観光客の姿が見られるかもしれない。
(鳥海高太朗・航空・旅行アナリスト)