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海外マネー呼び込めるか 史上初「4万円」の条件=大堀達也/村田晋一郎

 自由民主党の総裁選挙が9月29日に投開票され、岸田文雄氏が新総裁に決まった。同日の日経平均株価は、総裁選の決選投票の最中に前日比639円67銭安の2万29544円29銭で引けた。(日本株 上昇相場へ 特集はこちら)

 従来の自民党の流れを踏襲する姿勢を打ち出していた岸田氏が当選したことで、いったん政策期待はしぼんだ格好だ。前日に米国で長期金利が上昇し、ニューヨークダウ工業株30種平均は569ドル下落したことなどが大きな変動要因だが、岸田新政権への期待はそれを覆すほどの力はなかった。

 日本株がこの先、さらなる高値を目指すのか、それとも腰折れするのか。それは、具体的な政策というより、「岸田氏率いる自民党が総選挙を制し『長期安定政権』を築くことができるかどうかにかかっている」との見方が市場で広がっている。過去の政権と株価の動きを見ると説得力がある。

 小泉純一郎政権が発足した2001年以降の日経平均の推移を見ると、日本株は長期政権で上昇し短命政権で停滞してきた(図1(拡大はこちら))。長期政権での上昇は政策や改革を進めやすくそれを評価した海外投資マネーが流入しやすい。

岸田氏は日本経済を成長させられるか
岸田氏は日本経済を成長させられるか

 岸田氏の手腕を市場関係者や識者、そしてリスクをどう見ているのか。岸田氏が所得格差を問題視している点に着目するミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真CEO(最高経営責任者)は、「“金持ち優遇は許さない”という再配分重視の経済政策は歓迎すべきだが、金融課税の累進化を目指す政策は株式市場には非常にネガティブ」と話す。

「経済格差や企業の内部留保が経済成長の桎梏になっているという岸田氏の主張は妥当」と指摘するBNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、「規制改革に否定的なら、政策は成長の足を引っ張る可能性もある」とリスクも指摘する。

 岸田氏が大規模な財政出動を前面に出している点に着目するみずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「市場の関心は“成長あっての財政再建”というアベノミクスをどこまでなぞるのかにある。路線を引き継いだ方が安定政権になる」との見方を示す。

 一方で個人投資家の中には、早くも岸田政権で株価上昇が見込める「岸田銘柄」を物色する動きもある。「高齢人材活用を打ち出しているため、人材派遣のパソナグループやパーソルホールディングスに注目だ。エネルギー政策で原発推進を掲げており、再稼働で先行する関西電力や四国電力も見直されるだろう」(経済ジャーナリストの和島英樹氏)。

「菅退陣相場」を主導

 日本株は外国人投資家が最大の変動要因になっている。「菅退陣相場」と呼ばれた9月初旬の株価急騰を主導したのも海外勢だ。

 今年、日経平均は2月に高値を付けた後に失速。3~5月中旬に世界株式市場の中心は欧米に移った(図2)。菅政権の新型コロナ対策のつまずきで新規感染者数が拡大したことなどを受け、国際通貨基金(IMF)も7月に日本の成長見通しを引き下げた(図3)。8月20日の日経平均2万7000円割れは、コロナ拡大、米量的緩和縮小、アフガン情勢、中国減速、そしてトヨタ自動車減産の「5重苦」と言われ、この週、海外勢は日本株を現物・先物合わせて7000億円超売り越した。

 これらの懸念がやや後退した翌週、海外勢は3669億円の買い越しに転じ、「菅辞任」が伝わった翌週も3010億円を買い越し、日経平均3万円回復の原動力になった。

「春先に日本から欧米へ向かったマネーの流れが足元で逆回転している」と話すストラテジストの松川行雄氏は9~10月中旬に日本株が春の下落分を取り戻すと見る。

 東海東京調査センターの鈴木誠一マーケットアナリストも、割安修正は道半ばで上昇余地があるとの見方で、「日経平均が高値を取った2月16日から8月20日の安値までの約半年で海外勢は約2・9兆円売り、その後9月10日までの3週間で買い戻しに動いたが2兆円しか買っていない」と指摘する。

 さらに足元で日本株を買っているのはヘッジファンドなどの短期資金と見られ「本格的な買いではない」との見方が強い。海外の年金基金をはじめとする「長期資金」が流入すれば、日本株は「長期上昇相場」に入る可能性もある。

「ブルーチップ」買い

 回復基調とはいえ上値が重い日経平均とは対照的に「日経500種平均株価」は9月13日に初めて3000円の大台を突破し、14日に3033円45銭の史上最高値を付けた。企業利益が株価を牽引(けんいん)する「業績相場」では、「日本株の趨勢は日経平均でなく日経500で見るべきだ」(松川氏)という。素材・部品産業を中心に強い日本は「ブルーチップ(長期的な成長性と優れた財務・経営力を備えた優良銘柄)」の業績が株価の鍵を握る。

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 その代表格が10月から新たに日経平均に組み入れられるキーエンス、村田製作所、任天堂だ(表)。日経平均に先駆け日経500が最高値を取ったのも、同指数にはすでにブルーチップが多数組み入れられているからだ。

 潤沢な資金力を持つ海外ファンドが「ブルーチップ買い」に動き出したとの見方もある。足元で株価が急騰しているキーエンスは、株の最低購入金額が700万円程度と高額で個人投資家には敷居が高く、ヘッジファンドも及び腰になる。「実弾(現金)で買えるとしたら中東のオイルファンドだろう」(証券アナリスト)。

 オイルファンドは原油価格が上がると大型株を物色する傾向がある。「トヨタ自動車の株価が1万円を回復し、ソニーグループが直近高値を更新(図5)した要因として、大きな資金を投じられる海外勢がまず考えられる」(同)。

 世界には米量的緩和縮小、中国不動産問題、金利上昇と株高を阻むリスクがくすぶる。岸田新政権が波乱要因を打ち消す「変革」を打ち出すことができれば、日経平均は史上初の「4万円」が視野に入ってくるかもしれない。

(大堀達也・編集部)

(村田晋一郎・編集部)

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