都心住宅価格高騰をもたらした住宅ローン減税がついに縮小=長嶋修
頭金「ゼロ」もいまや当然?/121
2021年の不動産市場、とりわけ住宅市場は、ひとことでいえば「価値の維持または上昇」「価値の緩やかな下落」「価値の変化なし」という「3極化」がますます極まったといえる。つまり、「価値の維持または上昇」が都心や大都市など一部に限られた「極地バブル」「部分バブル」といった形になった。(不動産コンサル・長嶋修の一棟両断)
住宅取引は新型コロナウイルスの感染拡大による20年4~5月の緊急事態宣言下において半減したが、宣言が明けると大きく息を吹き返したばかりか、その勢いは衰えることなく、現在も続いている。ただ、その舞台は「都心」「駅前・駅近・駅直結」「大規模」「タワー」といった、より利便性が高く、比較的高額価格帯の物件がメインだ。
不動産経済研究所によれば、21年10月発売の首都圏新築マンション平均価格は6750万円と、1990年前後のバブル期を超えて過去最高となった。その理由として挙げられるのはまず、リモートワーク(在宅勤務)の普及や自粛により外出の機会が減少したことなどによって、より広く、より快適な環境を求めるようになったことだ。
ただ、こうした動きは、主に初めて住宅を購入する「1次取得層」に限られるのが特徴だ。すでにマイホームを所有している「買い替え層」は、間取りやグレードにある程度満足していることや、そこそこの立地なら自宅売却価格は高くなるものの、買い替え先も相当、価格上昇していることから動きが鈍い。
また昨今、圧倒的に「共働き世帯」が多く、いわゆるダブルインカムであることから世帯収入が高い物件の動きが顕著だ。
価格高騰の背景は、建設業界の「人手不足」や、木材や半導体などの品不足からくる価格上昇の影響も大きい。例えば、合板などは相変わらず品不足感が高く、半導体が組み込まれている給湯器などの設備機器は一部遅れも目立ち、価格も高めだ。
住宅ローン減税縮小へ
しかし、現在の住宅価格上昇を支えているのは、なんといっても圧倒的な「低金利」である。変動、固定金利のいずれでも年1・0%以下の場合もあり、地をはうかのようなレベルだ。さらに、住宅ローン減税が利用できれば、ローン残高の1%が所得税から控除される。
三井住友トラスト・資産のミライ研究所が21年6月に発表した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」によると、住宅購入時の頭金について「ゼロ(頭金なし)」が27・0%を占めている。住宅購入の中心世代となる30代に限れば、頭金ゼロの割合は38・1%とさらに上昇し、頭金10%も28・9%にのぼる。
一般論としては「貯金もないのにマイホームなんか買って大丈夫?」と言いたくなるが、この中には、手元資金があっても住宅ローン控除がローン金利を上回る「逆ザヤ現象」を利用する意図で、あえて多額の頭金を払わず借入額を増加させている人も相当数含まれているはずだ。
そもそもこの住宅ローン減税は、金利6~7%だった1972年に導入されたもので「金利分を一部補助する」という趣旨で設けられた制度だ。見直し論が高まり、与党税制調査会が12月10日にとりまとめた22年度の税制改正大綱では、住宅ローン減税の控除率を0・7%に縮小するとしている。
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立