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国際・政治 ウクライナ戦争で知る歴史・経済・文学

《ウクライナ戦争で知る歴史・経済・文学》中国、プーチン支持でも習近平体制は揺るがず=川島真

中露関係は同盟関係ではない(習近平・国家主席〈左〉とプーチン大統領) Bloomberg
中露関係は同盟関係ではない(習近平・国家主席〈左〉とプーチン大統領) Bloomberg

中国の「曖昧」 ロシア寄りも「同一視」に反発 台湾問題含め外交は慎重姿勢へ=川島真

 2022年4月、中国ではコロナ禍が上海などに広がり、元々懸念されていた経済不振がさらに深刻になっている。秋に第20回中国共産党大会を控え、習近平国家主席だけでなく、トップ7入りを狙う上海市党委員会書記の李強氏をはじめ早く事態を収拾させたいところだろう。国内に多くの課題を抱え、また秋の人事を控える中国共産党にとって、ウクライナ問題は予想外の難事だ。(ウクライナ戦争で知る歴史・経済・文学 特集はこちら)

 党にとりウクライナ問題は変数が多く、いまだ明確な評価が下せていないようだ。当初中国政府は「ウクライナ情勢」と言い、やがて「ウクライナ危機」と呼称を変えたが、ネット上では「侵攻」「進攻」「戦争」など、さまざまな用語が見える。評価が定まっていないのだろう。

 また、3月には中国の主要大学の歴史学の教員などがロシアの侵略行為を批判する声明を発し、それは削除されたが、それでも中国版のSNSには多様な意見がある。ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアのプーチン大統領のメンツを軽んじたことが原因だとの見方もあり、またキーウ(キエフ)周辺での惨事の映像が流されると、これを「惨案(虐殺事件)」などと呼ぶ向きも現れたが、当局はこれを虚偽だとするロシア側の見解を多く流している。

 このような中国内部でのウクライナ「危機」をめぐる多様な言論は、中国政府の姿勢が宣伝文句になるような簡単な言葉で表現できない複雑なものであることを示しているのだろう。

複雑なスタンス

 では中国政府のスタンスはどのように複雑なのか。第一に、一般に中露は専制主義などとして一くくりにされるが、中国としては受け入れられない。確かに、中国にとりロシアは特別な存在であり、「新時代の中露全面的戦略協力パートナーシップ」という位置付けはロシアが最重要国であることを示すし、首脳会談数も群を抜く。22年2月4日の中露首脳会談でもそれが確認され、ウクライナ侵攻後も、世界情勢がどうなろうとロシアとのパートナーシップは変わらないなどと王毅外相は述べた。

 だが、だからといって中露関係は同盟関係ではない。中国は1980年代初頭以来、独立自主の外交方針を持ち、同盟国は持たないこととしている。だからこそ、中国はロシアを全面的に支持することもない。中国は、ロシアの主権侵害を受け入れないし、ロシアのウクライナ侵攻を支持するとも言わずに、「中露が一枚岩だ」とする言論に反発する。

 第二に、中国には50年代以来の平和5原則があり、主権や領土の一体性の尊重などを提唱してきた。これは中国が発展途上大国としてG77(アジア、アフリカ、中南米の開発途上77カ国)の側に立つ基礎だ。この原則に照らしても中国は主権侵害を認められない。

 中国は西側先進国を少数派とし、自らこそが世界の多数派を体現しているという自負があり、その多数派からの支持のためには発展途上国からの支持が必須だ。そうした国々がロシアのウクライナ侵攻をどのように捉えているのか、慎重に見極めながら対応しているのだろう。

 第三に、中国は「ロシアと一くくり」にされて、西側先進国からの経済制裁などの対象となることを忌避する。中国と西側諸国との経済的な相互依存は依然強く、制裁は中国経済にとっても打撃となる上、もしそこに軍事的な圧力も加われば、中国の払うコストは大きくなる。

 また、2049年の中華人民共和国成立100周年に至るまで米国への挑戦を継続することを掲げた中国にとって、中露と西側先進国とが、かつての冷戦のように対峙(たいじ)することは好ましくない。可能なら西側諸国との摩擦を最小限に抑え、発展の環境を整える必要がある。だからこそ、欧州連合(EU)とも協議を重ね、また米国との関係も米中首脳会談などを通じて良好な関係を保とうとする。米中首脳会談も日本では米国が中国にロシアを支持しないようくぎを刺したとされるが、中国では米国がウクライナ政策について中国とのコンセンサスを必要としてきた、などと肯定的に見る向きもある。

 このように中国は、ウクライナ「危機」に対して、いくつもの変数がある方程式を解きながら(あるいは解けないまま)対応することになる。それが中国の対応の曖昧さ、複雑さの背景にあろう。

秋の党大会へ影響注視

台湾へ侵攻すれば中国は国際社会から孤立する可能性もある Bloomberg
台湾へ侵攻すれば中国は国際社会から孤立する可能性もある Bloomberg

 だが、最大の考慮要因はやはり国内政治だろう。22年秋の党大会で習近平氏が1980年代の初頭に胡耀邦が廃止した党主席に就任し、「独裁」体制を敷くのか、注目される。それだけでなく、主要幹部の人事が決まり、以後の体制ができる10年に1度の大事である。それだけに、対露政策やこれまでの対外政策、またこれからの米国への挑戦などの政策や理念を否定することはできない。

 また、和平交渉に軽々に乗り出して失敗することもできない。それだけにより慎重な姿勢になる。複雑である上に慎重な対応になるということだ。

 今回のロシアのウクライナ侵攻により、中国の台湾侵攻の可能性が多く議論されている。確かに、今回のウクライナ「危機」は中国にとって学びの場となった。軍事侵攻の難しさ、西側先進国の制裁のメニューと効能、限界、資源や戦略物資の重要性、クリミアとウクライナとの違いなどである。

 また、危機に直面したウクライナに対してEUや北大西洋条約機構(NATO)がハードルを下げて加盟を促すなど被害国の外交空間が広がることも観察しただろう。これらを台湾問題に適用してみれば、中国が、たとえ台湾侵攻計画を有していたにせよ、それを遅らせたり、計画を再策定することこそあれ、より早期の侵攻に踏み切ることは考えにくいのではなかろうか。

(川島真・東京大学大学院教授)

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