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教養・歴史 書評

アフリカに一夫多妻制と児童労働が存続する経済的意味とは 評者・高橋克秀

『人口革命 アフリカ化する人類』

著者 平野克己(日本貿易振興機構アジア経済研究所上席主任調査研究員)

朝日新聞出版 2310円

 国連の世界人口推計2022年版によると、世界人口は今年中に80億人に達し、50年には97億人になる見込みである。その後80年代に約104億人でピークに達する。この間の人口増加は世界中で平均的に生じるわけではない。日本や中国、ロシアなど世界のおよそ3分の1の国で人口は減少する。一方で激増が見込まれるのが、コンゴ民主共和国、エチオピア、ナイジェリア、タンザニアなどサハラ以南のアフリカの国々である。ただし、アフリカの国々には出生数や死亡数のような基礎データさえ把握していない政府も少なくない。国連人口部は試行錯誤を繰り返しながらかろうじて輪郭をつかんでいるというのが実情だという。

 人口増加に伴う若年層の増加は東アジアが経験したような人口ボーナスによる経済成長をアフリカにもたらすのだろうか。本書は否定的である。人口経済学では総人口に占める生産年齢人口(15〜64歳)比率の高まりが経済成長率の上昇と正の相関があることが知られている。本書では日本や韓国、中国で生産年齢人口の比率が急激に高まったのは、若年層が増えたからというよりは、出生率が急激に低下して従属人口(扶養人口)比率が低下したからだと説明される。大まかに言えば、国民の平均年齢が20代から30代のときに人口ボーナスが訪れる。しかし、アフリカ諸国のように出生率の低下が緩慢であると常に膨大な扶養人口を抱えることになって経済成長には不利になる。

 アフリカでは食糧の生産性は低いが人口増加率は高い。これを可能にしているのは耕作面積の拡大である。アメリカ大陸やアジアでは耕作面積が頭打ちになっているのと対照的だ。耕作面積拡大と人口増は表裏一体の現象である。さらに本書はアフリカ的生産様式として、一夫多妻制が根強く存続していることに注意を促す。農業生産の拡大は追加労働力を確保できるかどうかにかかっている。それは妻の数と妻がもたらす子どもの数に依存する。アフリカの人々に何人の子どもを希望するかと聞くと、「6人」という答えが多い。一夫多妻制の妻は労働負担を分担できる新しい妻の参入をむしろ歓迎するので、このシステムは容易には消滅しない。児童労働の問題も容易には解決しない。

 一方で耕地の拡大には物理的限界がある。気候変動の制約はアフリカに対して最も厳しく、すでに深刻な水不足が起きている。本書は人類の未来を展望した地球文明論であり、豊富な図版が理解を助けてくれる。

(高橋克秀・国学院大学教授)


 ひらの・かつみ 1956年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。同志社大学より博士号(グローバル社会学)。南アフリカ国際問題研究所客員研究員等を経て2020年より現職。著書に『図説アフリカ経済』など。

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